チュニジアのチュニスへ向かう航空便の機内でこの文章を書いている。日本人観光客3人を含む人々が、チュニスの博物館で起きたテロ事件の犠牲になった。その事件の取材に向かうために僕は機内にいる。テレビ報道という僕らの仕事は「発生モノ」と言われる目前で新しく起きた出来事に関心を奪われがちだ。「ニュース」という言葉の原義は「新しいこと」である。ただ、報道の役割はそうした目先のことだけで終わるものではない。また、そうであってはならない。長い時間を費やしてようやく理解できること、数カ月、数年、数十年の取材の結果分かることというものがある。そして、人間の歴史というものを考えてみると、むしろ、長期的取材の成果がより重要な意味を帯びてくることがある。僕自身にとって、そういうテーマのひとつが「沖縄の現実」である。
 特にこの1、2カ月の間に沖縄の名護市辺野古周辺で起きていることは、率直に記せば、常軌を逸している。常軌を逸していることは、通常であればマスメディアにとってみれば、報道すべき基準の必要条件のひとつなのだが、現実はそうなっていない。常軌を逸しているにもかかわらず、メディアの多くが(それは地元の一部テレビ局をも含む)、それをなかったことのように振る舞っている(振る舞っていないか?)。その対応自体が常軌を逸しているという事態が生まれているのだ。
 辺野古に米軍の新基地を造ることに反対の声が多くあり、その反対運動の一翼を担っていた沖縄平和運動センター議長の山城博治さんが、2月22日に米軍キャンプ・シュワブのゲート前で、米軍警備員によって身柄を拘束され、その後、沖縄県警に身柄を引き渡され逮捕された。約32時間後に山城さんは釈放されたが、米軍直属の警備員による行動は、常軌を逸した形だった。山城さんは、抗議行動をしていたメンバーらにイエローラインの内側に入らないように自制を呼びかけていたところ、警備員がやってきていきなり山城さんを後ろから押し倒し、その後両足を持ち上げて体を引きずって(まるで重いごみ袋を引きずるようなモノ扱いにして)身柄を拘引(けんいん)し、続いて米海兵隊兵士が金属製の手錠を後ろ手にかけて、基地内敷地にしばらく放置した。
 本紙北部支社の浦崎直己記者がこの一部始終を目撃していた。彼は携行していたデジカメで何枚かのシーンを撮影した。奇異なことに、山城さんが拘束された瞬間、現場には、米軍当局、沖縄県警がビデオカメラ数台で(確認できるだけで4台いた)拘束の模様を撮影していた。撮影用のバーまで用意して高い視点からの俯瞰(ふかん)映像を撮る念の入れようで、まるでドキュメンタリー映画か何かを撮るような体制が組まれていた。テレビ局は1局もその場にいなかった。後日、米軍のカメラで撮られた映像が外部に流出した。いや、この表現は不正確なので言い直せば、(この原稿の校正段階で発覚した事実だが)米海兵隊政務外交部次長ロバート・エルドリッジ氏が利害関係を同じくする第三者に映像を提供し、それがネット上にアップされた。その動画は、念入りに編集されたもので、ある意図を感じさせる代物だ。エルドリッジ氏は流出の責任を問われ、事実上解任された。
 山城さん拘束という事態が生じた日、NHKは全国ニュースとしてこの出来事をまったく報じなかった。NHK沖縄は、ローカルニュースとしてこの出来事を報じたが、それは大規模な基地反対集会が開かれたというニュースの最後に、付け足しのように10秒ほどで伝えただけだった。「植民地の傀儡(かいらい)放送局のようだ」と僕の友人は言い捨てた。
 この出来事の前にとびきりの常軌を逸した出来事があった。件(くだん)のエルドリッジ氏が、日本の良識ある英字新聞のひとつジャパンタイムズが「ファーライト(極右)・チャンネル」と表現する某インターネットTVに出演し、辺野古の基地反対の声を「ヘイトスピーチ」と同一視する発言をした。その昔、エルドリッジ氏は、大阪大学で日米関係論を学ぶ学者の卵だった。当時の彼のことを「日本のことをよく理解してくれるアメリカ人が生まれた」などと褒めそやす学者もいた。日本語を流ちょうに話し、一見人当たりのソフトな物腰の故だったからか。「ファーライト・チャンネル」に出演したことで、「彼の化けの皮がはがれた」とは、沖縄在住の政治学者ダグラス・ラミス氏の言葉である。
 日本の近現代史の泰斗、ジョン・ダワー氏にお会いする機会があった。今年76歳のダワー氏は、沖縄で起こっていることに強い怒りを表明していた。「私は、沖縄の人々が草の根運動を通じて、自らの声を届けようとする姿勢に心から敬意を表したいと思います。終戦以来、米日両政府が沖縄に対して行ってきたことを私たちは決して忘れてはいけません」。その怒りの矛先は第2次世界大戦終結70年、ベトナム戦争介入後50年の今年でさえ、パックス・アメリカーナ(アメリカ覇権による「平和」)を死守する米軍に、そしてそれに追随する日本政府に向けられたものであったことを記しておく。
 間もなくこの飛行機はチュニスに到着するはずだ。もうひとつの戦争がそこでは展開されている。(2015年3月24日付沖縄タイムス文化面から転載)

警備員に足を引っ張られる平和運動センターの山城博治議長(中央)と、県警に抑えられる男性=2月22日午前9時すぎ、名護市辺野古の米軍キャンプ・シュワブ