サトウキビ畑、天然のビーチ、東シナ海に沈むあかね色の夕焼け…。豊かな自然に囲まれた沖縄県読谷村で暮らす小川智史氏(43)は、東京にあるインターネットサービスの会社で取締役を務めながら、プログラマーとしてゲームの開発を手がけている。「自分たちが楽しいものをつくりたい」と日々挑んでいる小川氏に、会社と1500キロ離れた土地での働き方などを聞いた。(聞き手・大橋弘基=琉球大学インターンシップ生)

娘さんのエピソードを照れながら話す小川さん

クエストがある場所にたどりつかないと、問題を全部見ることができない仕組みになっている

ガソリン比較サイト“gogo.gs”のトップページ

沖縄に来た経緯を話す小川さん。いつも作業するカフェでインタビュー

2014年に始めたMonumentoの仕組み

娘さんのエピソードを照れながら話す小川さん クエストがある場所にたどりつかないと、問題を全部見ることができない仕組みになっている ガソリン比較サイト“gogo.gs”のトップページ 沖縄に来た経緯を話す小川さん。いつも作業するカフェでインタビュー 2014年に始めたMonumentoの仕組み

お父さんの仕事は宝探し


 -小川さんの仕事について教えてください
 5歳の娘いわく、僕の仕事は“宝探し”なんだそうです(笑)。幼稚園の先生にそう答えたよと聞いた時は、驚いて鳥肌が立ちました。大人の僕からすれば、普通の仕事にしか見えないのに、考え方一つで宝探しにみえるんだなと気付かされました。
 実際は、「まちクエスト」というスマートフォン向けのゲームを制作しているプログラマーです。スマホのGPSを頼りに、現在地の近くにある“クエスト”(クイズ)を探し、お題を解いていくというゲーム。休日は、子どもとクエストになりそうな場所を探したり、クエストにチャレンジしたりしています。最近は、Google(グーグル)が開発した現実世界での陣取りゲーム「Ingress(イングレス)」でも遊んでいます。
プログラマーの仕事は、子どもたちに説明してもなかなか理解してもらうのが難しいですが、一緒に遊ぶことで、“宝探し”をお仕事にしているお父さん、と認識してくれているようです。

 -「まちクエスト」の魅力は何ですか?
 「まちクエスト」は、“Geocaching(ジオキャッシング)”という世界規模の宝探しゲームが土台になっています。ゲームの参加者が、宝物を現実世界のどこかに隠しておくと、それを別の参加者がGPS(衛生利用測位システム)の位置情報を頼りに探し、宝物を見つけていきます。インターネットの技術と現実世界を融合させることで、普段見ている場所がゲームのステージになるという非日常を他の参加者と共有できることがこのゲームの魅力です。
 しかし、ジオキャッシングは、隠し場所がなかなか見つけられなかったり、ゲームを知らない人に宝物をゴミと勘違いされて回収されたりする課題があります。さらに、海岸沿いの危険な場所に宝物があったり、自動販売機の裏などに隠されたりすると、不審者に間違われそうでなかなか探せません(笑)。
 そこで、「まちクエスト」では、現実世界に存在するものではなく、“クエスト”(クイズ)を設置することにしました。隠し場所も複雑になりすぎないし、クイズは形が無いので、ゴミとして回収されることもありません。さらに、クイズを考えたり、解いていくことで、その場所の歴史などを知るきっかけにもなりますし、子供たちも安全に一緒に楽しんだりすることができます。
 昨年からは、「Monumento(モニュメント)」という、町の案内板の内容をデータベース化するサービスも始めました。これは、“クエスト”を解くヒントになります。“クエスト”の近くには、大抵、問題を作るための案内板が設置されています。目印に使われることもある案内板ですが、そこに書かれている内容は意外と知られていません。クエストを解くのも良し、歴史を知るのも良し、観光の参考にするのも良し、というサービスです。
 「まちクエスト」をリリースしてから、2015年2月で1年7カ月になります。一日にクエストが作られる数は、昨年同時期の6倍に増えて、クエストの総数は5624個(2月26日午前10時現在)になりました。その効果もあって、クエスト発見数も同じく昨年同時期の7倍にあたる97個になりました。これまで発見されたクエスト数も、延べ20000個を超えています。

 -まちクエストを作ったきっかけは?
 東京でエンジニアとしてサラリーマンをしていた2004年の秋。日本全国のガソリン価格を比較するサイト「gogo.gs(ゴーゴージーエス)(http://gogo.gs/)」を開設しました。サイトの利用者がドライブなどで出かけた先のガソリンスタンドでの価格を投稿していく仕組みです。
 ある程度のデータを集めないと多くの人に利用してもらうのは難しいと考えたので、まずは、自分でバイクを走らせてガソリンスタンドを回り、値段をボイスレコーダーに録音してデータを集めていきました。
 こういうサイトがあったらいいな、と思って開設したのですが、ガソリン価格の高騰や暫定税率の廃止といった世の中の流れもあって、メディアにも取り上げられるようになり、サイトの利用者も増えていきました。投稿してくれる人の中には、“縄張り意識”を持って、自宅周辺のガソリンスタンドをチェックすることが癖になるほど熱中してくれる人もいました。
 サイトを始めて約3年。ようやく運営が軌道に乗り始め、「株式会社ゴーゴーラボ」を設立。2010年には全国の電気自動車の充電スタンドの場所を地図化したり、カバンの中身をウェブ上で見せ合ったりするサービスも始めました。2011年に東日本大震災が起きた直後には、線量計を持っている人が各地の放射線量を測定し、数値を閲覧できるサービスも展開しました。 ちょうどその頃、あるイベントで、後に「まちクエスト」を一緒に立ち上げることになる石原淳也さんと出会いました。お互いジオキャッシングにはまっていることで意気投合。しかも、ジオキャッシングは自分の子どもと一緒に遊ぶには難しいゲームという考えでも一致。そこで、子供でも安心して取り組めるゲームを生み出そうと考え出したのが、「まちクエスト」でした。2013年、石原さんと「株式会社まちクエスト」を東京で起業。でも、私は沖縄に移住することにしました。

東京と沖縄 1500km離れて会社経営


 -会社は東京なのに、なぜ沖縄に移住?
 あの頃は、妻と「人生もあと半分。そろそろ東京以外で暮らしてみたいなあ」と話していました。僕も妻も東京で育って、もう40年ほどたっていましたし、東京以外の場所で色んなチャレンジをしてみたいという気持ちがありました。せっかくなら遠くへ行きたいし、暖かいところがいいと思って、沖縄に決めました。飛行機に乗れば意外とすぐに東京から行けますし、子育てもしやすそうだと。
 今、暮らしているのは読谷村。那覇市と名護市の間にあります。ショッピングセンターもあるけど、綺麗な海や夕日も見ることができる便利な場所です。
 インターネットで、週に1回、1~2時間程度のミーティングをしているので、時間や場所をあまり拘束されず、遠く離れていても仕事はできます。石原さんと実際に会うのは年に数回程度。石原さんが家族旅行などで沖縄へ来た時に会うこともありますが、頻繁に話をしているので、久しぶりだという気もしません(笑)。
 ただ、人との出会いが、東京に比べると少ない。人と会うことで、学べることや刺激を受けることは多いですが、沖縄ではその機会がどうしても減ってしまいますね。でも、そこもネットが要になります。FacebookやTwitterなどのSNSで、プログラマーの友人たちの投稿を見ていると、頑張ろう!と気が引き締まります。一人で仕事をしているので、緊張感が持続し、刺激を受けるツールになっています。
 毎日少しずつプログラムを書いて、腕を鈍らせないように工夫したり、積極的に新しいことにも取り組むことを意識しています。沖縄県内のプログラマーと時々集まったり、交流したりすることも、向上心を維持する秘訣(ひけつ)です。

 -今後の展望を聞かせてください
 「まちクエスト」や「Monumento」は、観光イベントや、商店街などでの地域活性化イベントで使ってもらうことも増えてきました。2014年秋には、愛知県の半田市と安城市が自治体主催のイベントで活用してくれました。
 しかし、今後に向けて、もっともっとデータとなる“クエスト”を増やして、内容を充実させることが必要です。データの蓄積から、新たな切り口や可能性が見えてきたり、ガイドブックには載っていない隠れた名所や景色を発見できたり、地元の人が地域を見る視点も変わってくるかもしれません。まち歩きの“味付け”にもなっていけたら良いですね。
 いずれは自治体との連携も強化して、オープンデータを活用させてもらうことが出来れば、もっと多くの人に使ってもらえるようなサービスが提供できると思います。「世界中どこでも使えるサービス」へと発展させていきたいので、そのためにこれからも“宝探し”を続けていきます。