前回までは壺屋を紹介していたが、今回からは那覇市の国際通りとつながるアーケード街近辺をご紹介していく予定だ。戦後の沖縄復興の象徴ともなった国際通りはさまざまな店が軒を並べ、古くには劇場もあり、とても賑やかな通りで、人々の生活を担う場所でもあり、娯楽を楽しむ場所でもあった。昭和の時代の懐かしい雰囲気が残る場所や特徴ある店舗をご案内したい。
 国際通りのむつみ橋交差点近くにある市場本通り。戦後のヤミ市から始まり、ガーブ川の上にふたをする形で建てられた水上店舗にはアーケードが設けられ、雨の日でも買い物がしやすいので地元のみならず観光客も多く訪れるが、その中でもひときわ大きな看板が目を引く「松原屋製菓」は創業60年を超え、通りの歴史を見守ってきた菓子店だ。
 サーターアンダギー(砂糖天ぷら)、バターケーキ、丸餅(もち)、カステラなど和洋さまざまな菓子がずらりと並び、開店と同時に買い求める客で賑わっている。創業の地は現在とは違い、同市樋川で「黒糖あめ」を販売したのが始まり。戦後は甘い物も少なく食糧事情も悪かったせいか、柔らかく、黒糖本来の味を生かした素朴な風味と滋養ある味は人気となった。今でもファンが多く、売り切れ必至の商品だ。
 松原屋製菓では菓子の販売や製造は家族で分業している。先代の味を守りつつ、製造を1人で行っているのは中山武弘さん。ほとんど店の2階にこもりきりの状態で毎日菓子製造に励んでいる。奥さんの愛子さんは「2階は男の職場。普段はとても優しい人だけれど、和風から洋風まで全ての菓子を作っているので、作業中は真剣そのもので怖いくらいです。」と語る。
 沖縄の定番菓子「サーターアンダギー」はプレーンのものからパイン、黒糖、紅芋、ゴマやクルミなど種類豊富で、キャラメル味は女性に人気だそう。ミックスタイプを大袋で購入する人も多く、定番商品として根強い人気を誇る。
 最近であまり見られなくなったバタークリームのケーキは年配の方からの支持も厚く、売り場の中央に並ぶ。餡(あん)入りの白餅は、NAHAマラソンに参加するジョガーが腹持ちが良いのと走る際の「(スタミナの)もちが良い」にかけてか、本番の前日に多くの人が買い求めるそうだ。台湾からの観光客にも人気で、陳列している餅を指差し購入することが多いとのこと。
 クレープに似たチンピンやポーポーは名前の物珍しさからか観光客が興味を示すこともあるが、地元の購入率も高い。結納や法事に使用する沖縄独自の菓子も写真付きで説明があるので、分かりやすいと評判だ。結納や生年祝いに使用する「松風」(マチカジ)は鮮やかなピンク色と形で目を引き写真を撮る観光客も多い。ゴマの風味が香ばしくサクサクとした食感も美味しいと人気だ。結納のときは中国語で「開口笑」と呼ばれているサーターアンダギーを大きめに作り、松風や「カタハランブー」と言われる子宝を願う菓子と一緒に盛り付け、昆布や柳樽などの結納の目録とともに贈られる。
 法事に使う菓子も種類豊富だ。トロロ芋を使用し、ふわっとした口当たりの皮と餡の口どけが良い「かるかん」をはじめ、マキガンや花ぼうる、お墓の入り口を形どった落雁(らくがん)など不思議な見た目の物もある。使用する菓子は行事により違うので相談しに訪れる人も多い。そのため、盛り付けを撮影した名刺サイズの写真も店内に常備している。沖縄では法事の年数を重ねるごとに赤い餅や赤い菓子を入れた「赤盛り菓子」が使われるそうで、松原屋製菓では33年忌のみに使用する「赤ふちゃぎ」と呼ばれる「しばもち」も作っている。
 伝統行事に合わせた菓子もある。沖縄で一番寒い季節に行われる「鬼餅」(ムーチー)の行事では健康祈願で月桃の葉に蒸した餅を包んだ「鬼餅」を食べるが、子供が生まれた最初の年は「初ムーチー」と言って親戚に配る風習や子供の年の数だけ軒下や屋内に飾る習慣があり、家庭で作るだけでは間に合わず、松原屋で大量に購入する地元客も多い。お菓子の定番として昔からある「レモンケーキ」はレーズン入りで美味しいと評判で、近隣の挨拶やお祝いの菓子としてカステラも重宝されている。
 一家の中心的存在の中山愛子さんは「昔はこの一帯に菓子店が立ち並んでいたそうだが、今では随分少なくなった。うちの店は一個ずつバラ売りしているので、いろいろな菓子が選べるためか年配のお客様の利用が多い。作りたての味も美味しいと評判で、お気に入りのお菓子を買い求める常連客も多いが、最近では外国の観光客が増えていて餡入りのもちが売り切れてしまうこともある。この店は家族が一つとなり、古くから伝わる味から一般に愛されている菓子を作り販売しているが、正月や行事の時はとても忙しく総動員で働いている。それが一層家族の結びつきを感じる時でもあるかもしれない。戦後から現代まで時代の移り変わりを感じながらこの店は続いている。これからも老舗の味を守りつつ、古き良き沖縄の味や風習を伝えていければ良いなと考えている」と語った。
 戦後70年を迎えた現在、商店街では店主の高齢化が進み、古くから残る建物が取り壊されたり、店を閉めるケースも出てきている。老舗を家族一丸で守り、手作りの味を提供し続ける松原屋製菓。店を訪れる人々を惹きつける笑顔も魅力の一つだ。今後も沖縄に伝わる風習や伝統行事を菓子に託して人々に伝え残していって欲しいと願っている。
(資料提供:一般社団法人那覇市観光協会 なはまちま〜い)

松原屋製菓店舗

松原屋の菓子作りを一手に担う中山武弘さん

結納用の結納菓子盛り

法事に使う花ぼうるや落雁

明るい笑顔で店を切り盛りする女性陣

松原屋製菓店舗 松原屋の菓子作りを一手に担う中山武弘さん 結納用の結納菓子盛り 法事に使う花ぼうるや落雁 明るい笑顔で店を切り盛りする女性陣