皆さま。お久しぶりです。沖縄タイムスに帰ってまいりましたよ! またまた、沖縄をめぐるワジワジーした状況をぶっ飛ばしましょうねえ。というわけで、初回はスペシャル版です。ある方への公開書簡です。
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拝啓
 多くの敬愛を集めてやまないキャロライン・ブービエ・ケネディ米国駐日大使閣下。大使としてご就任以来のめざましいご活躍ぶりを拝見している日本人の一人として、ここに新年の無事到来のお喜びを申し上げるとともに、失礼ながら是非とも申し上げたいことがございまして筆をとらせていただきます。
 私は日本のジャーナリズムの世界でたかだか30数年仕事をしてきた者の一人にすぎません。長年取材をしてきたなかの重要テーマのひとつに、沖縄にある貴国の軍事基地をめぐる諸問題があります。長きにわたる日米関係の歴史のなかで、私たち日本国民は、多くの価値を貴国の人々と共有するに至りました。なかでも民主主義の実現を保障する諸価値(言論、出版、報道、表現の自由)や、少数者、弱者の人権が保護されなければならないこと、差別をなくしていくことの必然性は、私たち日本の国民も、大いに貴国の建国の歴史から学ばせていただきました。独立戦争は、貴女の祖先たちが、イギリス本国の植民地主義から自由を求めて展開した偉大な闘いでした。正義が遂行されなければならない。人々はそのように考え闘いに加わったのでしょう。
 2013年の映画『ザ・バトラー』(邦題は『大統領の執事の涙』)はご覧になったでしょうか。日本でも公開されて評判を呼びました。1952年から86年まで8代の大統領に仕えたホワイトハウスの黒人執事のストーリーです。貴女のお父上も勿論(もちろん)登場します。まだ幼かった頃のあなたも映画のなかで描かれていましたね。貴女のお父上=J・F・ケネディ大統領の正義を求めて差別を憎む姿(公民権運動への深い共感など)に日本の観客たちも心を動かされました。ですから、私たちは2014年に貴国のミシシッピ州ファーガソンで起きた出来事を着目していました。貴国において正義はどのように遂行されるのかと。
 それにしても沖縄で現在起きていることを考える時、(沖縄の言葉では「ワジワジー」というのですが)、不正義が放置されていることに怒りと悲しみがあふれるのを禁じ得ません。沖縄の人々の民意が踏みにじられる根拠に貴国の軍事基地がなっているという冷徹な現実を看過するわけにはいきません。去年の2月に沖縄を訪れた貴女は、公式予定にはなかった稲嶺進・名護市長との会談を行いました。私はその場で取材をしていたのですが本当に驚きました。圧倒的多数で新しく選ばれた翁長雄志県知事があいさつのために上京した際、首相官邸が足を踏み入れさせなかった対応とは全く対照的です。わずか1年前に、官邸をあげてあの仲井真弘多・前知事を歓待した政府がやったことがこれです。
 問題の本質は、普天間基地の辺野古移設という間違った選択にあります。そうです。間違った選択です。世界一危険な在外米軍基地と言われる普天間基地ができる限り早く宜野湾市から撤去されなければならないことは日米両国の合意事項です。問題はその移設先です。もし、貴国のなかで、辺野古のような美しい自然の宝庫のような海を埋め立てて、新たに巨大基地を建設する計画が持ち上がったならば、貴国の住民たちはどのような意思表示をするでしょうか。民主主義の手続きに従えば、たとえば住民投票を行うかもしれません。あるいは代議員選挙で民意を示すでしょう。沖縄の人々は最近いくつもの選挙を通じて民意を示しました。名護市長選挙、名護市議会議員選挙に続き、沖縄県知事選挙では現職の仲井真氏を退け、辺野古移設反対を明確に公約に掲げた翁長氏を新しい知事に選びました。さらに年末の衆議院議員選挙(貴国の下院選挙にあたります)でも、辺野古移設反対を掲げた議員が全員、移設推進の候補者たちを打ち負かしました。もちろん、このような事実は貴女もご存じでしょう。
 貴女はツイッターによる情報発信を積極的に行っておられますが、それを読んでとても励まされた沖縄の人々も多いでしょう。貴女は、お父上の信念を引き継ぎ、差別を憎み正義の遂行を望んでおられる、と。ですから、マーチン・ルーサー・キング牧師を称賛され、日本国憲法に女性の権利条項を書きこんだベアテ・シロタ・ゴードンさんの名前を記されている。貴女はさらに、日本の一部地域で行われているイルカの追い込み漁に反対する立場も勇気をもって示されました。そこに書かれていた「非人道性」(inhumaneness)という評価は、イルカに対してばかりか、辺野古の海に生息するジュゴンに対してもあてはまりませんか。いや、沖縄の人々の民意が本土政府から無視され続け、日本における貴国の軍事基地の74%がわずか0・6%の国土を占める沖縄に集中している現実に対してこそ、「非人道性」という言葉が使われるべきなのではないでしょうか。
 全米有色人種地位向上協会(NAACP)の理事も歴任され、性的マイノリティー(LGBT)の人権を守るパレードに激励の声を送った貴女であればこそ、正義が遂行されるよう、影響力を行使されることを願ってやみません。沖縄の人々はじっと凝視し続けています。貴女が沖縄で交流した高校生たちの世代も含めてです。
 今年2015年は貴国が沖縄に軍事基地を造り上げてから70周年の意味深い年であります。日米の真の交流が促進されます年になりますように。ますますのご活躍をお祈り申し上げます。末尾になりますが、私はニール・ダイアモンドの曲『スイート・キャロライン』を青春時代に聴いて育った世代です。
           敬具
(2015年1月8日付沖縄タイムス文化面から転載)

国立沖縄戦没者墓苑で献花するキャロライン・ケネディ駐日米大使=2014年2月12日、糸満市