最高裁が選挙区割りについて国会に繰り返し「違憲状態」と指摘している「1票の格差」問題。投票しても住んでいる地域で、一人一人が持っている1票の価値が違う状況が続いています。12月14日の衆院選でも、全国295選挙区すべてについて無効を求める訴訟が起こされました。どうして国政選挙の度に訴訟が起こされるのでしょう。憲法学者で首都大学東京の木村草太准教授に聞きました。(沖縄タイムス+プラス編集部 與那覇里子、社会部・下地由実子)

―「1票の格差」問題で、司法は国会に、衆参両院の選挙区割りについて、違憲状態だと指摘していますが、国会が十分な回答をしているのかどうか、疑問があります。


 最高裁は、従来、衆議院で3倍、参議院で6倍程度の格差まで許容してきた。しかし、平成23年以降、最高裁が格差の要因となってきた「一人別枠方式」とその元での選挙は「違憲状態」と判決したことで、この基準が大きく変わり、1票の格差を原則として許さない姿勢が示されました。
 基準が変わったのは、民主党への政権交代があったここ4,5年のことなので、国会が急激な基準の変化に対応できていないのもやむをえない面があります。

―4、5年の間に最高裁の態度が変わったのはなぜでしょうか。


 自民党は選挙制度の変更を避ける傾向があるが、政権交代があったので、ある程度踏み込んだ判決を出しても国会が対応できると、最高裁は考えたのではないか、と言われています。また、1人1票を求める国民運動の影響もあるでしょう。
 理論的には、1人1票が原則であり、1票の格差は、それを正当化するだけの重要な理由が無い限り許されないという憲法学説が、実務家に浸透したことが重要です。現在の最高裁判事が、司法試験を受けていたころ、憲法学説もかなり1票の格差に批判的になっていました。

―1票の格差をめぐる訴訟には、どのような論点がありますか?


大きくは四つあります。
 一つ目は、憲法がそもそも、投票価値の平等を要求しているのかという、憲法の解釈の論点。そもそも、憲法は居住移転の自由を保障しており、住む場所は自分で選べます。選挙権を放棄できる以上、自分の意思で人口の多い選挙区に住むことを選んだのであれば、投票価値の平等までは要求できないのではないか、という見解も少数ながらありました。しかし、現在は、憲法は1票の価値の平等も要求しているとの見解で固まっています。
 二つ目は、どのような格差があれば、違憲と評価されるかという点。従来は、1人2票は許されないとして、二倍以上の格差を違憲とする見解が有力でした。 しかし、これには、1.5倍だろうと、1.3倍だろうと、特定の人の投票価値を増やすことはおかしいとの批判が強まりました。そこで現在では、1対1を基本とし、そこから乖離する正当な理由があるかを個別に検討すべきとの見解が有力になっています。最高裁も、その見解に近いです。例えば、人口を無視して各都道府県に1の議席を配分する1人別枠方式が違憲とされました。
 三つ目は、格差が違憲と判断された場合、国会がそれを是正するための合理的期間を経過していたか、どうかという論点。定数が違憲状態になっても、すぐには是正できないので、合理的期間を経過しないうちは、選挙は違憲と評価されないわけです。
 四つ目は、選挙が違憲だった場合に、選挙を無効とするかどうかの論点。選挙を無効にすれば、社会に大きな混乱が生じます。なので、選挙違憲の宣言だけに止め、選挙自体は有効とする「事情判決」と呼ばれる判決が書かれることもあります。
 これまで最高裁は、選挙違憲としたことはありますが、選挙無効までは宣言したことはありません。

―では、「1票の格差」問題と最高裁裁判官の国民審査との関係についてはどう捉えていますか。


 裁判官の仕事は、法律家を導き、国会を動かす緻密な法理論に基づく判決を書くこと。国民審査は、最高裁の裁判官が、十分な能力を有しているかを審査するための制度です。
 単に、「選挙無効判決を書いたかどうか」だけを基準にしていては、緻密でない議論、乱暴な議論しかできない裁判官を残し、高い能力を持つ裁判官を罷免してしまうかもしれません。
 例えば、選挙を無効にしろといっている裁判官の判決文よりも、一歩手前で止めている人の意見の方が、法理論的には優れていて、国会を動かす力になるというケースもあると思います。
 ですから、国民審査では、結論もさることながら、そこに至る理由にも注目する必要があります。国民が判決本文をすべて読むのは大変ですが、国民審査の広報に判決や個別違憲の要旨は説明されているので、それを見るだけでもかなり参考になるでしょう。

―仮に最高裁が全体の結論として「選挙を無効にしましょう」と言ったら、その国会というのはどうなるのでしょうか


 これまで色んな議論がありましたが、提訴された選挙区の選挙のみが無効になると考えられています。無効になった選挙区から選ばれた人は議席を失い、国会は、即座に選挙法を改正する義務を負います。