8月、家庭応援プロジェクトの「試運転」がスタートしました。

【A君が一生懸命解いた英語のプリント】

【A君と心の距離を縮めるために遊んだ絵しりとり】

【分かるまで何度も繰り返した教科書と問題集】

【A君が一生懸命解いた英語のプリント】 【A君と心の距離を縮めるために遊んだ絵しりとり】 【分かるまで何度も繰り返した教科書と問題集】

 私が担当したのは中学2年のA君。ひとり親家庭で、母と妹と三人暮らしです。A君は毎日大好きなバスケに汗を流し、勉強にも励んでいました。そんな彼は、中学校で配布されたチラシで「ひとり親家庭応援プロジェクト」を知り、私たちの大学に足を運んでくれたのです。

 バスケットの練習着で来てくれたA君と初対面の日。開口一番、A君は「よろしくお願いします」と、お辞儀をしながら挨拶してくれました。
 私も「こちらこそ、よろしくお願いします」と、思わず大きな声で言ってしまいましたが、むしろ、彼の学習を心から応援しようという、気合の表れでもありました。

 机に座るとA君は、シャーペン、消しゴム、学校のプリント、教科書をカバンから取り出しました。プロジェクトで使うために準備した新しいノートもさりげなく開いて、シャーペンをカチカチ。

 ここで、私がA君の苦手な教科を尋ねてみると、英語だと言います。二人で話し合って、夏休みの宿題の英語のドリルとプリントをメーンに勉強することにしました。

 まずは、ドリルを今日は○ページから○ページまでやるという1日の目標を設定して、一緒に取り組むことから始めました。ドリルが終われば、プリントを一緒に解いていきます。プリントも解き終えたら、今日の内容がきちんと理解できたかを確認するため、私が自作した確認テストもこなしました。

 ただ、彼の様子を観察していると、問題点も見えてきました。分からない問題に直面した時、手の動きが止まってしまうのです。さらに、観察を続けると、自分から質問出来ずに戸惑っているようにも見えました。

 彼が、分からない問題を解けるようになるためには、分かる人に何度も質問できる自分になることが必要です。私が、彼の解けない問題を一方的に教えていていは、自立して勉強し、自ら問題を解けるようにはなりません。むしろ、自立を妨げてしまいます。

 そこで、彼の緊張をほぐすため、彼と私の心の距離を縮めるために、休憩時間、A君が得意な絵を使った「絵しりとり」をしようと提案しました。
 ノートの隅に、二人で静かに、ネコやネズミなどの絵を描きながらのしりとりが始まりました。

 「絵、とっても上手だね!」
 「これは何か分かる?」
 「んー、何だろう? 鳥っていうのは分かるけど」
 「これはね、スズメだよ! 難しったかな~」
 「これはネズミだよ、可愛いでしょ?」

 15分ほどのしりとりでしたが、笑いながら絵を描いたり、二人で楽しい時間を共有したことで、少しだけ心の距離が近づいたように思えました。

 2回目のプロジェクト。2日ぶりのA君との再会。 バスケットの練習着のA君とまた、休憩時間に二人で絵しりとり。

 「しりとりはリンゴから始まるのが定番だよねー」
 「そうだよね、リンゴ美味しいから大好きだよ!」

 この日も2人で英語のドリルを解きました。英文の訳が難しいらしく、戸惑っている様子でしたが、自分から質問しようとはしませんでした。まだ緊張しているのかと思い、我慢できずに私から「どうしたの?難しい?」と声をかけてしまいました。しかし声をかけた後、やっぱりこのままではA君の自立には繋がらないと思ったのです。絵しりとりやお喋りをして、A君と心の距離を縮めるために時間を使いました。

 そして、4回目のプロジェクト。

 いつものように、シャーペンをカチャカチャ、ノートを開いて30分ほど経ったころ。ドリルを解いていると、Aくんの手の動きが止まりました。「あ、分からないんだな」と気付いた私は、自分から「この問題はこう解くんだよ・・・・」と言いそうになりながらもグッとこらえて待って数分以上。

 「この問題が分からないから教えてほしい」

 Aくんが自分から、私に質問を聞いてきてくれたんです。私は心の中で、「待ってました!」とガッツポーズ。静かな、小さな言葉ではありましたが、彼の成長を大きく感じました。
 彼は、英文の並び替えが分からないから教えてほしいと質問してくれました。
 そして、彼が問題を理解できるようになるまで、何度も何度も同じ問題を繰り返しました。

 そして、プロジェクトを重ねるうち、「この問題が終わったらまた、絵しりとりやろうよ!」と、自分で目標を設定できるようになっていきました。さらには、分からない問題が出てくると、分かるまで何度も私に繰り返し質問しては、机に向かって勉強に取り組む姿勢が生まれ始めていました。

 A君とは、一緒にバスケットもしました。年上の大学生とスポーツをするので、遠慮がちになるのではないかと思いましたが、「ナイス、シュート」と誰よりも元気に声を出し、ドリブルの技もたくさん見せてくれて、積極的に自分からゲームの輪に入ってくれました。A君の目はとても輝き、一緒に汗を流すことで中学生と大学生の絆はより深まりました。

 そんなスポーツマンのA君とは、プロジェクトに駆けつけてくれたペーパークラフトのボランティアメンバーと一緒に制作したバラ作りでも大盛り上がり。A君は、興味津々で、無言で集中しています。しばらくして作品が出来あがると、A君は私のところに寄ってきて作品を見せては、「難しかったけど頑張ったよー」「上手く出来たから家に帰って妹にプレゼントしよう!」とにこにこ。心を開いてくれていること、A君の居場所になろうとしていることがうれしくもありました。

 そして、A君は「試運転」の最後の日、私にこんな言葉をくれました。
 「とっても楽しかった!夏休みが終わってもまた来たいな!」
 プロジェクトを重ねるごとに、自分から分からない問題を質問してくれたり、私たちが驚くほど、明るく元気に話しかけてくれたりと、大きな成長が見られた試運転は大成功!
 大学生ボランティアメンバーもプロジェクトを続ける自信をつけることができました。

 そして、約1カ月の夏休みの試運転期間の終わりが近づいてきたころ、私たちボランティアメンバーは、中学生と保護者に宛てて手紙を書き始めました。次回はその手紙についてお伝えします。