沖縄市コザミュージックタウンから乗り込んだ人たちを加えて、辺野古へ向かうバスの中、参加者は自己紹介がてらに、この日のツアーに参加したきっかけや目的、辺野古に対するイメージを語り合った。
 例えば浦添市の病院で働く看護師の前田彩音さん(25歳)は、こう語った。
「映画『標的の村』を観に行ったときに知り合った人から、このバスツアーのことを教わりました。映画を見て主に描かれている高江のことだけじゃなくて、辺野古のことも知りたいと思いました。自然豊かな場所で、もしかしたらジュゴンも見られるのかな、というイメージです」
 スタッフの眞鍋詩苑さん(名桜大学3年)は「辺野古の海はすごくきれいです。そして、そこに集まる人の思いも知ることができる場所だと思います」と参加者に伝えていた。
 辺野古に行くのがまったく初めてという人は、5名ほどいた。
 高校生の参加者もいた。具志川高校3年の長濱麗女愛(りおな)さんは、中国に語学研修に行ったときに現地で知り合った元山仁士郎さんからこのツアーを知らされ、同級生の奥間寛大さんを誘って参加した。
長濱さんは「反対運動の人たちが座り込んでいる場所」、奥間さんは「なんもなくて、自然が多いところ」というイメージだという。
 打ち解けた空気が車内に流れ始めたころには、もう辺野古漁港に到着していた。
 座り込みテント村では、いつも辺野古の海の監視活動をしているボートの船長をしている人たちに話を聴いた。
 仲本興信船長らから、辺野古新基地計画の概要や座り込みの歴史についての説明を受けた上で、3隻のボートに分乗して、いよいよ海に出ることになった。わたし自身、久しぶりの辺野古の海だった。
 防衛省沖縄防衛局の海底ボーリング調査の作業も、市民の抗議活動も、安全指導と称する海上保安庁の取り締まりも、一切ない、静かな海である。
 8月中旬に、辺野古新基地建設のための防衛局によるボーリング調査が開始されてから、わたしは海上からの取材のために何度も海に出てきた。
 強引に作業を進める防衛局と、船やカヌーで海に出て抗議する市民県民、全国からの支援者。そしてその抗議活動を止めに入る海上保安庁の職員たち。様々の立場の人びとが海の上で、それぞれの職務や思いを携えて対峙する騒然とした日々が、何十日も繰り広げられていた。
 わたしも時にはカヌー隊に混じって体験取材をさせてもらった。海上保安官と、海の上で押し問答的なコミュニケーションを取ることも一度や二度ではなかった。
 ところが台風19号の影響などもあって、防衛局による海上作業はいったん中断されたが、なんと知事選で「辺野古新基地建設断固反対」の翁長雄志候補が10万票の大差で圧勝した、そのわずか3日目の11月19日に、あえて沖縄の民意に否定するかのように、防衛局は海上作業を再開。また緊迫の海になってしまった。
 そうして今度は解散総選挙だ。衆議院議員選挙期間中は作業をストップせよ、という号令が、東京の政府関係者から出たようだった。
 だから、一時的とは言え、今は静かな海なのだ。
 わたしを含む10名ほどが乗り込んだのは、平和丸。市民の抗議活動の船としては名を知られている。
 船長を務めたのは名護市在住の相馬由里さん。案内役は、同じく名護在住の仲本興信さんだった。
 説明はわかりやすかった。埋め立てられようとする範囲が手に取るように理解できるような船の走らせ方をしてくれるなどしてくれて、若者たちの口から「こんなところまで埋めるの?」と驚きの声が上がっていた。
 皆が皆、真剣な眼差しだった。
 また、相馬さんと仲本さんは、粋な計らいをしてくれていた。辺野古崎沖の平島という小島の近くに、300年も生きて成長したハマサンゴがあり、そのポイントに若者たちを案内してくれたのである。
 皆、感嘆の声をあげつつ、箱メガネを使って見入っていた。
 それからキャンプ・シュワブの浜の近くまで行き、ジュゴンのエサの海草藻場も船上から観察した。
 若者たちが子供のように生き生きとして見える時間だった。
 波しぶきを浴び、風に吹かれつつ、果たして、若者たちはこの海に出て何を感じていたのだろうか。
 辺野古漁港に戻ってから、それとなく感想を問うと、皆口々に「辺野古の海を実際に、船の上から感じることができてよかった」という意味の返答だった。
 それ以上の言葉は、瞬時には出てこないようでもあった。辺野古に来たことはあっても、実際に海に出たことのない人がほとんどである。だから、本当の実感を、何もあわてて聞き出そうとする必要はないのである。ゆっくりと感想を聞く機会は、きっとあるはずだから。
 このツアーは、辺野古だけではなく、高江にも足を伸ばす。
 次なる日程は、実際に、海兵隊基地ゲート前の抗議行動の現場へ向かうこと、だった。
 さて、そのゲート前で、ちょっとしたハプニングが起きた。これについては次回、じっくりと検証してみたい。(つづく)