10日に施行された特定秘密保護法。外交や防衛などに関する情報を「特定秘密」と指定し、情報を漏らした公務員らへの罰則を強化する法律で、知る権利や報道の自由が侵害されるのではないかと危惧されている。法の専門家はどうみているのか。気鋭の憲法学者、首都大学東京の木村草太准教授(憲法学)に聞いた。(タイムス+プラス編集部 與那覇里子、社会部・下地由実子)


 ―特定秘密保護法に基づいて逮捕が想定される具体的な事例などがあれば教えてください。
 特定秘密保護法というのはかなり誤解されているように私は思います。「危ない」「悪い法律」というイメージが、なんとなく沸き上がっていると思うのですが、もう一度、条文をちゃんと読んでもらえれば、そんなに変な法律じゃないと分かると思います。
 恐らく、政府が秘密に指定したものは、全部秘密になってしまうというイメージで語られていると思いますが、特定秘密保護法は細かく読むと、政府の指定は実はどうでも良くて、安全保障に重大な支障が生じるという、そこの条件が非常に厳しくなっています。
 ここの条件が重要で、「安全保障に重大な支障」という条件を満たさなければ、政府がいくら指定してもそれは特定秘密にはなりません。
 骨格を説明すると、特定秘密保護法は、「漏洩すると日本の安全保障に重大な支障が生じる情報を特定秘密と指定する法律」です。だから、(1)安全保障に重大な支障が生じること (2)(1)の情報が外務省や防衛省といった行政機関に指定を受けること (3)別表記載の情報であること―の3つの条件がそろって特定秘密になります。
 まず、特定秘密保護法が施行される前はどうだったのでしょうか。施行前、日本の秘密はどう保護されていたのでしょうか。そこに、非常に誤解があるように思います。

■何が「秘密」かを定義し、厳罰化した法律


 国家公務員法100条というかなり昔からある条文は、公務員は秘密を漏らしてはいけないと書かれています。しかし、その法律には秘密の定義はありません。全くありません。しかし、秘密を漏らすと罰せられます。漏えいをそそのかした人も罰せられます。
 ですので、特定秘密保護法制定以前から、国家秘密を漏洩させたり、取材した場合には処罰される法律だったんですね。
 今回の特定秘密保護法は、保護されていた秘密のうち、一定の範囲のものについて、罪を重くするといいう法律です。これまでの法律では、秘密を漏洩しても一年以下の懲役という、非常に軽い犯罪でしたが、「安全保障に重大な支障を生じさせる秘密」については、10年まで引き上げます。
 例えば、秘密が書かれた書類を官庁から盗んだ場合は窃盗罪になり、10年以下の懲役です。今回の特定秘密保護法も同じレベルの犯罪になります。
 ですから、厳罰化の程度も一気に死刑するとかそういうレベルではありません。合理的範囲に留まっているように思えます。営業機密の漏洩とか窃盗罪と同じレベル。犯罪としての重罰化の程度も変わりません。
 ―「安全保障に重大な支障を生じるかどうか」は最終的には誰が判断するのでしょうか。
 最終的には裁判所が判断します。
 ただし、マスメディアが「安全保障に重大な支障が生じない」と思って取材をした場合には、特定秘密であることを知らなかったということになります。専門的な言い方になりますが、故意がないので処罰できない、というのが特定秘密保護法です。
 特定秘密保護法で処罰の対象となるのは、漏えいをはじめ、開示をすると安全保障に重大な支障が生じる情報であると知った上で、漏えいをそそのかす行為です。
 例えば、自衛隊の暗号を漏らそうと思って、報道しようと考えた記者が、自衛隊幹部に働きかけて、情報を漏らしているというようなことが当たります。ただ、そのような取材行為は、普通は想定できないですね。
 そもそも、報道してはいけない、報道すべきではない情報を取材することについて、強く保護する理由はないと思います。
 逆に、自衛隊幹部の不祥事は、特定秘密に指定することはできません。
 なので、メディアの方はもう一度、特定秘密の定義の条項を読んで、どういう情報を取材すると規制されるのかを正しく理解して頂きたいと思っています。