トントントントントン。
 金づちとなたで硬いひづめを削る音が、牛小屋から聞こえてきます。ひづめは牛の爪。牛も人間と同じように爪のお手入れが必要です。
 牛のひづめを切ったり、整えたりする牛の“ネイリスト”は、削蹄(さくてい)師と呼ばれます。私の父もその一人。闘牛、和牛、乳牛から、観光地で働いている水牛まで、あらゆる牛の削蹄をしています。
 私の父、久高唯志は、私が物心ついた頃から削蹄の仕事をしていました。この道30年以上。これまで、沖縄のあちこちを回って、たくさんの牛を見てきました。
 成牛は、800キロから1トンもある体重を4本の細い脚で支えています。ですので、第二の心臓と呼ばれるほど大切な足の裏のひづめですが、負担も非常に大きいのです。
 野生の動物は、岩場などを歩いているうちに自然とひづめが削れ、整えられたりしますが、人間に飼われている牛や馬はどうしても削蹄が必要です。
 削蹄を怠ると、平らだったひづめが、全体的に盛り上がってしまい、スムーズに歩けなくなることもあります。闘牛はもちろん、和牛も乳牛も食欲が落ち、乳量も減ってしまいます。
 削蹄師は、牛の健康を保つため、牛の片足を上げてしっかり足をつかみ、ひづめの底に土踏まずの役割となるようなくぼみを牛用の爪切り「蹄刀(ていとう)」や牛用のニッパー「削蹄剪鉗(せんかん)」などを使って作ります。そのくぼみは、心臓のポンプのような働きをするようになり、血液の循環が良くなるのです。
 ひづめの先端を整えることも大切です。足を踏ん張った時にひづめが割れたり、ひづめが傷ついたりすることを防ぎます。
 人間の爪と同じで、伸びすぎると爪が割れてしまい、痛みが出てしまいます。例えば、長い爪でボーリングをしてしまって爪が割れると、「ちーごーごー(沖縄では、血がいっぱい出ている様子のことを指します)」してしまいますよね。短く切りすぎても、深爪になっても、痛いのは牛も同じです。切りすぎると「ちーごーごー」します。でも、その加減が難しく、牛によっても爪の特徴がかなり違うので、何年もの経験を積んでようやく削蹄師となれるのです。
 病気の兆候が表れるのもひづめです。
 足を捻挫すると、人間は「痛い」「ひねった」「捻挫だ」と、口で伝えられますが、牛の場合、そうはいきません。足を引きずって歩く様子から、牛主さんたちが牛のSOSを感じ取ります。捻挫の場合、患部が熱を持ち、逃げられなかった熱でひづめの生え際が破裂してしまうこともあります。
 栄養が行き過ぎてしまっても、牛に悪影響を及ぼします。ひづめの底が二枚に割れ、汚物がたまり、そこが化膿して病気になることもあるからです。人間と同じように、栄養バランスも非常に大切です。
 さて、そんな大事な牛のひづめの専門家の削蹄師ですが、実は、私の父は沖縄県では唯一、削蹄師を指導できる「指導級削蹄師」の資格を持っています。
 父の元には、
「ちょっと元気がないけれど、どうしたんだろう?」
「食欲がないんだよね」
「足をかばう様な立ち方をしている」
など、牛は何も話しませんが、小さな変化を見逃さない牛主さんたちから、相談の電話が頻繁にあります。
 すると、父は、すぐさま削蹄の道具をトラックに載せ、急いで牛の元に向かいます。イベントよりも、友達との飲み会よりも何よりも、牛優先。それは自分の牛だからとか、友達の牛だからとか関係ありません。牛のため、牛の健康のため。牛が大好きだから、沖縄のどこであっても向かうのです。
 そんな父ですが、数年前、乳牛の削蹄中に両肩のけんを切る大けがを負ってしまいました。闘牛の削蹄は私の弟の直也に引き継ぎましたが、父への依頼は絶えず、今も現役。削蹄の研究を続けています。
 それだけ、削蹄の仕事は、牛主にとっても牛にとっても大事な役割を担っています。今、沖縄にいる削蹄師は、約110人。2014年9月には、削蹄競技大会の九州大会が初めて沖縄で開催されました。沖縄でも、削蹄の大切さを見直す機運が高まっています。これから沖縄で、牛を足から支える“名トレーナー”が、もっともっと誕生し、牛の業界がより盛り上がっていくように、闘牛カメラマンとして、追いかけ続けようと思います。

【闘牛用の削蹄トラック。車の乗り降りに慣れている闘牛は、トラックに乗せて削蹄をします】

【人間の土踏まずのような働きをさせるため、真ん中にくぼみを作る削蹄をした後のひづめ】

【ひづめの先端部分を切っているところ。伸びすぎると戦いの時、踏ん張りが利かなくなります】

【父(右)が大学生に削蹄の指導をしているところ。後輩の育成に努めています】

【弟の直也(右)が父の後を継ぎ、今は二人三脚で削蹄に励んでいます】

【闘牛用の削蹄トラック。車の乗り降りに慣れている闘牛は、トラックに乗せて削蹄をします】 【人間の土踏まずのような働きをさせるため、真ん中にくぼみを作る削蹄をした後のひづめ】 【ひづめの先端部分を切っているところ。伸びすぎると戦いの時、踏ん張りが利かなくなります】 【父(右)が大学生に削蹄の指導をしているところ。後輩の育成に努めています】 【弟の直也(右)が父の後を継ぎ、今は二人三脚で削蹄に励んでいます】

■■暮らしにアートin伊計島~おきなわ作家市~■■


女性向けウェブマガジン「W」でコラムを執筆している闘牛カメラマンの久高幸枝さんが、うるま市の旧伊計小中学校で開催される「暮らしにアートin伊計島」(12月4~14日)に参加します。タイトルは、「ユキと愉快な仲間たち闘牛写真展in伊計島vol.2」。是非、足を運んでみてください。
入場無料。期間中は午前10時から午後6時まで開催。
詳しくは、暮らしにアートのフェイスブックまで。http://urx.nu/ezsK