こんにちは。今回で「島人の宝・塩」も5回目を迎えました。
さて、11月中旬に奥武山公園にて離島フェアが開催されましたが、みなさん足を運ばれましたでしょうか? 離島フェアには、普段なかなかこういったフェアには参加することのない離島の製塩所のみなさんがいらっしゃるので、私は毎年訪れることにしています。
今回私が訪問した際には、「粟国の塩釜炊き」(沖縄海塩研究所)の小渡幸信さん、「蔵盛さんちの塩」(蔵盛製塩)の蔵盛京子さん、「くがにまーしゅ」(多良間海洋研究所)の長岡秀則さんが会場にいらっしゃいました。

全国に熱狂的なファンがいる「くがにまーしゅ」

多良間海洋研究所の長岡秀則さん

手作りの結晶小屋に並んだ結晶箱。海水を入れてあとはひたすら待つ

コロッとした大きな粒が特徴の「くがにまーしゅ」。カリカリした食感も楽しい

トマトとモッツァレラチーズとバジルのサラダ~カプレーゼ~に「くがにまーしゅ」をぱらりとかけて

台風で倒壊してしまった多良間海洋研究所の製塩所(2012年夏)

全国に熱狂的なファンがいる「くがにまーしゅ」 多良間海洋研究所の長岡秀則さん 手作りの結晶小屋に並んだ結晶箱。海水を入れてあとはひたすら待つ コロッとした大きな粒が特徴の「くがにまーしゅ」。カリカリした食感も楽しい トマトとモッツァレラチーズとバジルのサラダ~カプレーゼ~に「くがにまーしゅ」をぱらりとかけて 台風で倒壊してしまった多良間海洋研究所の製塩所(2012年夏)

塩だけではなく食べ物全般的に言えることですが、生産者のことを知ることで、よりその食べ物に対する理解が深まり、安心できますし、なにより愛着が湧きますよね。そして、その場所に行ってみたいという気持ちが湧いてきます。そこで今回は、沖縄の製塩所紹介第一弾として、「くがにまーしゅ」を生産する多良間海洋研究所についてご紹介します。

「くがにまーしゅ」が生産されている多良間島は、宮古島と石垣島のほぼ中間に位置した、人口約1200人の小さな島です。琉球王国時代には宮古・八重山地区と沖縄本島を繋ぐ貿易の中継地点として栄え、現代でもその当時からの風水(フンシー)に基づいた島作りが行われており、国指定重要無形民俗文化財にも指定された「八月踊り」など、独特の文化が色濃く残っている島でもあります。

多良間島で塩を生産する長岡秀則氏は、実は多良間島出身ではなく、高知県出身の島ナイチャーです。そんな氏がどうして多良間島に来て塩づくりに携わるようになったのでしょうか。
氏は、大学時代に医学を学び、人体における塩の働きに興味を持ちました。その後報道カメラマンとして世界の戦闘地域を飛び回る中で、命の重要性に触れ、さらに塩と生命の関係について考察を重ねていくこととなります。そして、「人体に理想的な塩づくりがしたい」という思いは高まり、報道カメラマンの第一線から退いたのち、塩づくりに適した場所として熊本県天草を選び、塩づくりを開始しました。食べるための塩づくりのほか、塩と生命の関係について研究を深めてアトピー治療施設を建設し、全国各地を講演して回るなど充実した活動を行っていましたが、探求心と向上心の塊のような氏の思いは留まるところを知らず、「さらに理想的な塩とはなにかを追求したい」という気持ちが高まっていきました。

そんな氏に転機が訪れたのは2000年のこと。旅行で訪れた多良間島で、村役場から「多良間島で塩を作ってほしい」という要望を受けたのです。さらなる理想の塩を追及したい気持ちが高まっていたこと、そしてなにより多良間島の美しい環境にも心惹かれ、氏は移住を決意。熊本県の製塩所を人に譲り、2001年に多良間海洋研究所を設立し、さらなる理想の塩づくりをスタートさせました。

長年「人にやさしい、身体によい塩」を研究してきた氏の理想とする塩は、「火を通さないで作る塩」。太陽と風の力だけで濃縮・結晶させる完全天日塩です。以前の記事の中にも記載しましたが、沖縄は今でこそ塩の名産地ではありますが、高温多湿で降雨量も多く、日照時間も短い上に台風の襲来も多く、塩づくりにとってはあまり恵まれた立地ではありません。そのような環境の中で太陽と風の力だけで海水を濃縮・結晶させるというのは、気が遠くなるほどの時間がかかります。海水は約3.4%程度の塩分濃度で、それを25~30%程度まで濃縮させることで塩の結晶が生まれてきます。約8~10倍近くに濃縮するわけです。それをもし釜で炊いたとしても、炊き上がるまでには数日かかるのですが、太陽と風の力だけだと、短くても1か月、長いと3~4か月かかることもあります。

特に氏の場合は、一般的に天日製法で使われる濃縮タワー(竹枝やネットを高いところから組んで海水をかけ流すやり方。風がよくあたるので比較的濃縮が早い)を使わずに、汲んできた海水をそのまま箱の中に入れて、あとはただひたすら毎日ゴミを取り除き、結晶化が始まれば手で揉み、という作業を繰り返していきます。そのため、取水から製品化までに約3~4カ月かかります。しかも、出来不出来は天候次第。もし理想的でない塩ができた場合は、海に戻します。この話を聞いた時、まるで、納得のいかない作品ができてしまって割ってしまう陶芸作家のようだなあと思いました。塩は食べ物でもあるけれど、同時に芸術作品でもあるのかもしれません。このような製法なので、なんと1カ月の収穫量は約70kgとごく少量。もっとたくさん作ってくれという声も多く寄せられているそうです。
氏曰く、「効率的じゃないことはわかってるけど、こうしないと自分が理想的だと思っている塩ができない。お金儲けが目的ではなく、ただ人にやさしい塩を作りたいだけ。塩は『作る』というよりは『育てる』という感覚なんだよ」と、自らの理想の塩づくりを守りぬいています。

これは別に沖縄に限った話ではありませんが、県外出身者が沖縄に移住してきて、本当の意味で馴染むには時間がかかりますし、馴染めるかどうかは本人の努力次第というところがあります。特に離島となれば、なおさらです。高知県生まれの氏は、多良間島に移住したのち、塩づくりをしながら新聞社の通信員も任され、地元の行事には必ずといっていいほど参加し、積極的に地元のみなさんと交流してきました。さらに多良間空港に「ヘミングウェイ」という喫茶店もオープンし、1日2便の飛行機に合わせて自らが店頭に立ち、観光客はもちろん、島民のみなさんに憩いの場を提供しています。

象徴的だったエピソードは2012年の大型台風襲来時。自分で作った結晶小屋は跡形もなく倒壊し、出来上がりかけていた塩も全て流されてしまいました。「台風の被害も含めて、海の恵みをいただいているってことだから」と挫けずに結晶小屋の再建に取り掛かった氏のもとには、誰彼となくボランティアで手伝いに来てくれたそうです。島民からも愛される塩、それが氏のつくる「くがにまーしゅ」なのです。
「いずれ島の誰かがこの塩づくりを継いでくれて、多良間島に塩づくりの文化が長く続いていったらいいなと思っている」
それが氏の願いです。

そんな「くがにまーしゅ」の特徴は、宝石のように大きい結晶。結晶小屋の風通しを極限まで多くすることで室温が上がるのを避けているため、低温でじっくりと育った結晶は、粒が大きく、太陽の光にきらきらと反射して、まるで宝石のようです。
噛むと、しゃくっとした食感とともに、骨太のしょっぱさと心地よい酸味と苦味が口の中に広がります。一番シンプルに楽しむなら、冷やしトマト。冷やしたトマトをスライスして、ゼリー部分に「くがにまーしゅ」をひとつまみ。数分置いて水分と馴染んできたところで、ガブリと食べてもらうのが一番です。そこにモッツァレラチーズとバジルを合わせてオリーブオイルをひとたらしして、カプレーゼにするのもおすすめです。簡単なので、ぜひ試してみてくださいね。

多良間島に渡るには、宮古島からフェリーと飛行機の便が出ています。フェリーで約2時間20分、飛行機で約20分ほどの距離なので、ぜひ気軽に訪れてみてください。
なお、長岡さんは飛行機の時間帯は空港のカフェにいたり、ほかのお仕事で製塩所にいない場合もあるので、製塩所見学をご希望の方は事前に必ず連絡を入れてくださいね。

多良間海洋研究所
住所:沖縄県宮古郡多良間村字仲筋76
電話:0980-79-2500