引退セレモニーの続きである。
 さりげなく送られた金城茂之からのメッセージは、山城吉超の胸にじんわりと染みこんでいった。
それから、ヘッドコーチの伊佐勉や球団代表の木村達郎らのスピーチがすべて終わり、いざ自身がマイクを握ったとき、こみ上げるものを堪えるのが難しくなり、沈黙する時間ができてしまった。
 セレモニーが終わってから、記者会見室に現れた山城は、感極まった理由を訊かれて、「7シーズン一緒に戦った金城からのメッセージが、いちばん胸に来ました」と正直に明かした。
 じつは、金城に続いてメッセージを送った伊佐勉も、こみ上げるものを抑えるのに苦労した一人である。
「ヨシキ(山城)とシゲ(金城)と僕は、初年度から一緒でしたが、二人は、練習に来るにも、左に行ったら練習会場、右に行ったら、南部の綺麗な景色が見えるところで、(練習がきついので)どちらに行こうか迷ったりもしたそうです…」
 そんなキングスのチーム創設時の頃の思い出を振り返りながら、伊佐は絶句してしまったのだ。綺麗な景色を選ばなかったから、二人の現在があったと言いたいのであろう。
 二人をキングスの初年度に練習生として来ないかと誘ったのは、ほかならぬ伊佐なのだから。
照明の落とされたコートの上で、中央に立つ山城と、スピーチをする伊佐にスポットライトが当たっている。伊佐は、こう続けた。
「…ずっと、ヨシキに助けてもらいました。人として、一人の男として、ヨシキを尊敬しています」
 ヘッドコーチから引退していく選手にこのような賛辞が贈られることが果たしてほかにあるだろうか。大観衆はシーンと静まり返り、そして大きな拍手が起こった。
「練習中は、ま~た太った、ま~た酒飲んでる、と(小言を)言ってばかりでしたが…、興南高校の先輩でよかったです」
 とオチを付けることもわすれなかった。ドッと場内の笑いを誘ったことは言うまでもない。
「第二の人生、頑張ってほしいと思います。ヨシキ、本当にお疲れ様でした」
 コート上、メッセージを送る者送られる者の間に、自然なかたちで温かい感情が通っている。それが2階記者席から、視力の衰えたわたしにも見て取れる。凄いことだ、と妙に感心してしまった。素敵な時間が流れていった。
 スピーチを締めくくったのは、球団代表の木村達郎だった。
「キングスのためにすべてを捧げてくれてありがとうございました。ヨシキがここまでチームに貢献してくれたのは(最大のポイントは)、練習にあったと思います。大きな外国人選手にも物怖じせず向かっていく姿、例えば(かつて在籍した巨漢の)スニードにも喝を入れるぐらいの気持ちでぶつかっていました。キングスが、外国人日本人の垣根なくやってこれたのは、ひとつのチームになれたのは、ヨシキがつくってくれた伝統だと思います。キングスが存在し続ける限り、キングスファミリーとして歩んでいただきたいと思います」
 球団トップとして、山城に対する最大限の賛辞をこめたメッセージ。こうして盛大なセレモニーが行われることも含めて、山城の人徳のなせる業というほかない。

金城茂之(右)のスピーチを聴く山城吉超(Junya Nashiro)

コート上で、スピーチを終えた伊佐勉ヘッドコーチが山城に歩み寄って労をねぎらう(Junya Nashiro)

セレモニーのあともプレスルームに現れた山城吉超(Natsuhiko Watase)

2012年4月21日、宜野湾市立体育館での千葉ジェッツ戦にて。怪我をしてベンチにさえ入れなかった山城と金城のツーショット写真が奇跡的に出てきた。わたしには、あの頃の二人をちゃんと見ていた、という記憶があって、必死でこの写真を探していたのだ(Natsuhiko Watase)

金城茂之(右)のスピーチを聴く山城吉超(Junya Nashiro) コート上で、スピーチを終えた伊佐勉ヘッドコーチが山城に歩み寄って労をねぎらう(Junya Nashiro) セレモニーのあともプレスルームに現れた山城吉超(Natsuhiko Watase) 2012年4月21日、宜野湾市立体育館での千葉ジェッツ戦にて。怪我をしてベンチにさえ入れなかった山城と金城のツーショット写真が奇跡的に出てきた。わたしには、あの頃の二人をちゃんと見ていた、という記憶があって、必死でこの写真を探していたのだ(Natsuhiko Watase)