「次はYayoの番! あなたのサンバを見せて」。
 ここはブラジル。何百人もの観客に囲まれている中、指名された私は、勇気を出して一歩前へ。約50人のバテリア(打楽器隊)が奏でる爆音のサンバのリズムに身を投じ、即興で腰をシェイカーのように細かく縦に揺さぶりながら、必死でステップを踏み、両手を大きく動かします。サンバの本場で生きる仲間たちとサンバを通して一つになれる喜びを全身全霊をかけて表現しました。

日本の学校の体育館よりも一回り広い練習場。この中央で、私も踊りました=2012年、サンパウロ

かかとをあげて、地獄の耐久ステップ中。Yayoは、写真右。2010年、サンパウロ

低い姿勢のボーラ(腰回し)は強じんな足腰と筋力、さらにはバランス感覚が必要

とにかく、踊って踊って踊って、体に動きを染みこませます

子どもたちのレッスン中。「みんな、手足を思いっきり伸ばして」「情熱的に」

日本の学校の体育館よりも一回り広い練習場。この中央で、私も踊りました=2012年、サンパウロ かかとをあげて、地獄の耐久ステップ中。Yayoは、写真右。2010年、サンパウロ 低い姿勢のボーラ(腰回し)は強じんな足腰と筋力、さらにはバランス感覚が必要 とにかく、踊って踊って踊って、体に動きを染みこませます 子どもたちのレッスン中。「みんな、手足を思いっきり伸ばして」「情熱的に」

 すると、「Muito Bom!(ムイト ボン=とてもいいよ)、「Que legal!(キ レガウ=すてき)と、観客の声。これが、私のサンバダンスが、私という人間が、ブラジルのサンバチームに受け入れてもらえた安堵と喜びの瞬間でした。

 サンバダンスを思い浮かべると、羽根を背負った女性たちが、演出のもとで同じ振付で踊るような“サンバショー”としてのイメージがあるかもしれません。でも、サンバの醍醐味(だいごみ)は、振付のない即興ダンス。日常で繰り広げられるブラジル伝統のサンバは、サンバが好きで集まった仲間たちが奏でる音楽に対して、ダンサーは感じたままに、躍動感あふれるステップを刻み、自由に表現します。それこそがサンバの魅力でもあり、難しい部分でもあります。

 サンバを始めた頃、この振付なしの即興の世界に、とても戸惑いました。学生時代はクラシックバレエ、社会人になってからはヒップホップやジャズダンスを習いましたが、いずれも教科書のようなお手本となるダンス、分かりやすい基本の動きがあったからです。自分で振付を考えて、創作したこともありますが、あらかじめ曲を研究し、何度も練習を重ねて本番を迎えていました。

 では、思いのままに、はちゃめちゃに踊るのがサンバなの? もちろん、そんな事はございません。サンバダンスに欠かせないステップや腰回しなどの基本の動きはありますが、ヒップホップやジャズダンスに比べると、この動きでなければならないという共通のルールはほぼ存在していません。心と体が一つになった「あなたのサンバ」が大切なのです。

 そして、一人前のパシスタ(女性花形ダンサー)として初めて認められるには、この即興のダンスで観客を魅了できなければなりません。私がサンバ道を突き進むためには相当な訓練が必要でした。

 転機は2010年、サンパウロの名門サンバチーム「モシダージ・アレグレ」に所属する、女性トップダンサーが教える5日間の「サンバ合宿ツアー」への参加でした。修行をしようと、初めてブラジルに飛びましたが、ワクワクと浮かれ気味な気持ちで臨んだ私は、すぐに後悔することになりました。

 初日のことは、忘れもしません。まず30分間、ノンストップでひたすらサンバステップを踏みます。それを2~3セット。この時点で、足は棒のようにカチコチ。ヒールを履いた状態を想定して、終始かかとを上げたままステップを刻むと、ふくらはぎがものすごく痛くて、スタミナも既に底を突きそうな状態。ようやく耐久ステップが終わったかと思えば、スクワット50回! 疲れた体にムチを打って、達成できたときには、足腰ガタガタ、太ももはパンパン。もう、これ以上は、本当に、本当に、う・ご・け・な・い。