再版においての有用性


 前回は電子書籍と〈紙の本〉の違いについて書いたが、実は今年1月、ボーダーインクでも初めての電子書籍を発行した。「聞き書き・島の生活誌」シリーズ7巻(http://www.borderink.com/?p=11433)だ。もともと書籍版で発行されたが、一部の巻で在庫がなくなってしまい、増刷も難しいが絶版にしたくないという編者の希望があって電子書籍として再版することになったのである。

 同じような格好で再版された県産本は他にもある。ひとつ例を出すとすれば「おきなわ文庫」(http://okinawa-bunko.com/)だ。こちらも元々は〈紙の本〉の新書シリーズで、1982年5月15日のスタートから96冊が刊行された。名嘉睦稔さんの手による進貢船の版画があしらわれた、緑色もしくは赤色の表紙に見覚えはないだろうか。この「おきなわ文庫」は一部の巻に絶版が出ているものの、取り上げるテーマの広さと深さ、内容の充実度によって現在でも愛読者は多い。

キャプション:〈紙の本〉は在庫切れとなり、電子書籍で再版された「聞き書き・島の生活誌」シリーズ全7巻

 電子化を手掛けたのは同シリーズから名をもらった「株式会社 おきなわ文庫」の秋山夏樹さんである。「既存の本を印刷することなくインターネット上で再版」と聞くと簡単そうに聞こえるが、全くそうではない。技術的な作業もさることながら、シリーズ開始から30年近くが経っており、著者や著作権者へ連絡を取るだけでも並々ならぬ苦労があったのは想像がつく。

同社販売ページ(http://okinawa-bunko.com/series.html)を参照すると、現在までにシリーズ87冊が電子化を果たしている。関係者の方々のご尽力、そして情熱に深い敬意を表するとともに、沖縄の名著の数々が手に入れやすくなったことを心から喜びたい。〈紙の本〉として復刻するのは難しかったかもしれないが、電子書籍によってそれが可能になった。こうした「復刊」において電子書籍が大きな力を発揮する証左と言えるだろう。おきなわ文庫は、沖縄タイムス社などの沖縄県産本の電子書籍化事業を熱心に継続中で、また別の会社からも『オキナワグラフ』(再版)や『100シリーズ』(http://www.okinawa-ebook.com/)など、さまざまな電子書籍が発行されている。興味のある方は各サイトを参照してほしい。

電子化ニーズは本当にニーズか


 しかしながら、ボーダーインクでは先の「聞き書き」シリーズを除き、既刊本を電子化したり、新たな電子書籍を発行したりする段階には至っていない。理由はきわめて単純なもので、小社のような地方の小さな出版社においては、電子書籍そのものの販売で採算が取れる見込みが立たないからである。沖縄の本は実用書が売れる傾向にあるし、それとは違うジャンル、例えば歴史書などでも「自分の生まれ育った地域のことを知りたい」と、いわば「実用書的に」売れる傾向が強い。必要な時にすぐ手にとってめくることができる簡便さが大事なのだ。