医師はいつでも、患者さんを救いたい、治したい、少しでも良くなってほしいと思っているものです。患者さんも助けてほしい、治してほしいという思いでしょう。お互いの気持ちがうまく重なり合うと治療がうまくいきます。重い病気やひどいけがでもお互いの信頼関係ができていれば、時間はかかっても良くなっていくものです。

 しかし医学は万能ではなく診断や治療には限界があり、治せないこともあります。不幸にも死の転帰をとられる場合、ご本人もご家族も苦しいでしょうが、傍らで見る医療関係者にとっても大きな苦痛を伴います。

 それでも医師はどんな病気も治していこうと努力します。いつかその病気を治せる日が来るだろうと信じます。また医師だけでなく、看護師、検査技師、薬剤師、栄養士、心理士、社会福祉士など多くの職種がチームとなって協力して患者さんの治療をサポートしています。

 実は治療の中では患者さんが主役。医師も含めて医療関係者は皆脇役で、患者さんが良くなるための援助者です。主役は受け身になるのではなく、自分が責任を持って病気や障害に立ち向かうことが必要なのです。

 ある心理学的研究(Lammbert)によると、治療者の専門的手技・能力は治療要因の15%にしかすぎず、治療外要因による治療効果が実は多いとのこと。治療外要因とは、プラセボ効果(思い込み)、偶然の変化、自然治癒、良い関係、希望など、患者さん側に関連するものがほとんどです。医師は大抵研究熱心ですから、新しい薬や新しい治療手技を開発していきます。

 しかしそれを使う相手は人間なので、理論通りにはいかないこともあります。医師は病気だけを診て、人間を忘れがちになるからです。病気を抱えた人間という意識で付き合えば、良い人間関係が作れます。それを周りのスタッフ、チームメンバーがサポートしてくれるので助かることも多いのです。

 治療がうまくいく要因には「患者と医師の良好な関係」の他、患者さんの「希望」という要因が大きな力を持ちます。しかし病状の悪い患者さんはなかなか、希望が持てません。「希望」は確かな結果でも、約束された安心でもありません。ですが「希望」は不確かな未来に対する、意思表明です。困難な病気を抱え苦しんでいるときも、「良くなるはず」「今より楽になる」という「希望」は、今の苦痛を和らげ、明日に向かう気力を高めてくれます。「希望」は治療に役立つ一番のクスリなのです。(長田清 長田クリニック)