厚生年金と国民年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2015年度、5兆数千億円の運用損失を出したことが明らかになった。

 年金の給付は保険料などで賄われ、その余剰分を積み立てている。国が全額出資し、厚生労働省が所管するGPIFは、約140兆円の積立金を運用する「世界最大級の機関投資家」といわれる。

 14年10月にGPIFは積立金の運用基準を国内外の株式投資に重きを置く方向に変更した。12%だった国内株式と外国株式をそれぞれ25%に倍増させた。外国債券も11%から15%に引き上げた。一方で国債中心だった国内債券の割合を60%から35%に引き下げた。堅実な運用から積極的運用へ転換したのである。

 運用基準変更は安倍晋三首相の意向が働いている。安倍政権の経済政策アベノミクスによる超低金利で比較的安全とされる国債で利回りを稼ぐのが難しくなった。運用基準変更でGPIFが株の買い手になれば株価上昇を後押しする。アベノミクスの成長戦略の一環でもあった。

 だが、株式投資の重視は、「ハイリスク・ハイリターン」で、収益と損失が背中合わせだ。実際、15年7~9月期は、7・9兆円のマイナスが生じた。中国が人民元を切り下げたことによる先行き懸念から「チャイナ・ショック」が広がり、世界的に株価が下落したためだった。

 10~12月期は持ち直して黒字となったものの、16年に入ってからも年明けから円高株安傾向が続き、1~3月期も損失を計上したとみられる。

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 短期の運用損益が年金支給額にすぐに影響することはないが、運用が長期にわたって不調となれば、年金が減額される恐れが出てくる。

 15年度の運用損失は株式投資の危険性を露呈したと言わざるを得ず、国民の老後は安心どころか不安に変わる。

 安倍首相は先の通常国会で想定の利益が出ないときは「給付で調整するしかない」と答弁、年金が減額になることを示唆している。

 積立金は国民の財産である。老後を支える大切な年金資金を変動する不安定な株式に、「ギャンブル」のようにつぎ込んでいいのだろうか。

 最近も英国が欧州連合(EU)からの離脱を決めた直後から株価が急落するなど金融市場は不透明感を増している。16年度も現時点ですでに運用損失を出しているのではないかとの懸念が拭えない。

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 国民の財産を運用して赤字を出したわけだから、GPIFは速やかに情報開示し、説明する責任がある。だが、GPIFは、個別銘柄の保有状況を初めて開示するなどとの理由を挙げ、例年6月下旬から7月上旬に発表する運用実績を参院選後の29日に先送りするという。参院選を避けており、野党が「損失隠し」と批判するのは当然だ。

 社会保障への関心は高い。損失を出すことになった運用基準の変更は国民合意が得られているとはいえない。GPIFは投票前に有権者が年金問題について判断できる情報をすべて明らかにすべきだ。