性善説を唱えた中国の儒教家の孟子は、「人皆人に忍びざるの心有り」と説いた。人間には元々、自分より弱い者、力がない者をいたわり、慈しむ気持ちが備わっているという意味である

▼忍という字は心に刃という字が乗っている。「忍びざるの心」をどこにどう置き忘れると、人はここまで凶暴な「刃」になってしまうのだろうか

▼相模原市の知的障がい者施設で26歳の元職員の男が19人の入所者を次々に刺殺した事件のニュースを見聞きして思う。未明の就寝時間帯を狙った卑劣で残忍な手口には、怒りを抑えることができない

▼動機の解明を待たねばならないが、男が「障がい者なんていなくなればいい」と供述しているのが気になる。障がい者に対する強い差別と偏見に満ちているからだ。何故、ゆがんだ考えは形成されたのだろう

▼以前読んだ記事で、ダウン症の小4女児の母親の言葉を思い出した。妊娠時に出生前診断を受けず、再びやり直せても検査は受けないと語り「あの時に消えた命なら、こんなにたくさんの喜びを与えてくれることはなかったから」

▼容疑者の男に言いたい。狂った「刃」に突然命を奪われた19人には父がいて、母がいて、たくさんの喜怒哀楽の毎日があったはずである。置き忘れた「心」が見つかっても、時計の針を戻すことはもうできない。(稲嶺幸弘)