災害発生時、高齢者や心身に障がいがある人、外国人など、何らかの援助が必要な方(被害時要援護者)にとって、とっさに自分の身を守る行動を取ることは簡単ではない。専門家は「被災地では情報伝達が音声中心になる上に、行政による支援はほとんど機能しない」と指摘する。災害弱者はどのように命と生活を守るのか-。普段から、必要な取り組みについて考えることが大切だ。

避難所の情報コーナーに掲示された、聞こえにくい方への案内=5日、熊本県益城町・益城町中央小学校

講師の稲垣暁さんに質問する市民ら=6月26日、那覇市・なは市民活動支援センター

避難所の情報コーナーに掲示された、聞こえにくい方への案内=5日、熊本県益城町・益城町中央小学校 講師の稲垣暁さんに質問する市民ら=6月26日、那覇市・なは市民活動支援センター

 県難聴・中途失聴者協会は6月26日、災害時に「社会的放置」状況に陥る可能性のある聴覚障がい者への対応を学ぶため、那覇市のなは市民活動支援センターで公開講座「災害時の聴覚障がい者と情報保障」を開いた。同会の関係者や一般市民約15人が参加。同支援センター非常勤専門相談員で防災士の稲垣暁さんが「脱出と避難・移動」「平時の実践」など六つのテーマについて講話した。

 参加者は、稲垣さんが作成したシナリオを使い、聴覚障がい者の災害事の行動をロールプレイング形式で疑似体験。耳の不自由な人が緊急時、周囲と意思疎通することがどれだけ困難かを確認した。

 「障がい者を取り巻くハードルは災害発生と同時にいきなり上がる」と稲垣さん。東日本大震災後、東北の被災3県の人が利用した情報ツールが「テレビ」「ラジオ」に集中した事例をあげ「ラジオが聞こえない被災者は放っておかれてしまった」と指摘した。

 あらゆる情報が一気に入手困難となって社会的放置状態に置かれるとし、いつ来るか分からない大災害に対し「既存のコミュニティーで、さまざまな支援の仕組みを少しずつ変えていく必要がある」と強調。

 さらに普段は障がい者に対し理解を示す人でも、大地震などの災害発生時には、関心が薄まると述べ「理解者を増やすことが一番重要。要約筆記技術を生かした、双方向伝達を促す情報支援ボランティアの養成が急務」と加えた。

 同講座では3人の要約筆記者が講師の発言を随時、スクリーンに掲載した。

 全国要約筆記問題研究会県支部の金城孝子支部長は、災害時はまず自らの安全を守ることが重要とした上で「聴覚障がい者のための文字資料など、視覚的情報の準備・確保につとめると同時に、地域住民とその必要性を共有したい」と話した。

 県難聴・中途失聴者協会の根間洋治会長も「防災、減災をテーマに外部講師を招いての講演は初の取り組み。日頃の学習と備えが重要と感じた」と意義を語った。(社会部・知花徳和)

■支える技術を地域で育てる 稲垣暁さん(なは市民活動相談支援センター専門相談員/防災士)

 熊本で情報弱者の現状を聞いた。指定避難所に入れず、車中や損壊した家に留まった大勢の高齢者や障がい者の情報を行政は把握できなかった。指定避難所だけを支援対象にしていたためだ。

 過去の災害で、障がい者の安否確認に行政の手が回らず、当事者団体に頼った。個人情報の提供もなく困難を極めた。この教訓も、熊本で生きなかった。

 支援情報が届かない問題もある。熊本では福祉避難所の存在が伝わらなかった。

 混乱の中、避難所指定外の大学が福祉避難所を開設し、障がい者が安心して暮らせる場を提供した。

 学生や教員がボランティアで「最後の1人まで」適切な機関につなぎ、住宅を探す支援も実施。講義も早期に再開できた。「つなぐ」ための情報支援機能を持つ人の存在は大きい。

 災害時は音声伝達が中心になり、聴覚以外の障がい者も困難が増える。身体障がいは移動の制約が増え、情報接触が減る。手や会話が不自由だと正確に伝えにくい。

 視覚障がいでは空間情報の把握が難しい。発達障がいは指示語など抽象的な情報を理解しにくい。災害時は性差が強調され、LGBTは困難を伝えづらい。言葉が通じない外国人観光客も情報弱者だ。

 簡潔な情報を複数の方法で流すことが必要だ。支援側の行政やメディアは、伝達時に必ず「周囲の人にも伝えてあげて」という言葉を入れるべきだ。

 行政は「困ったら役所に来る」という窓口申請主義に陥りがち。

 公的ボランティアセンターも同じで、声を上げにくい人や言語化しにくいニーズは届かない。ボランティアの「公助化」は柔軟な支援を難しくする。熊本の民間団体は、公的機関が把握しない所にボランティアを送り出していた。

 益城中央小避難所では、避難を経験した立場から、今後、災害が起きた際は「どんな支援をしたいか」を「避難者」にアンケート。住民による自治と手を差し伸べ合う意識が進み、情報弱者が減った。

 防災訓練に加え、情報支援のセンスを持つ住民を地域で育てる取り組みが必要だ。

■福祉避難所を確保 那覇市が16法人と協定締結

 大規模災害発生時に妊産婦や乳幼児、高齢者、障がい者ら特別な配慮が必要な市民(要援護者)が安全に避難所生活を送れるよう、那覇市(城間幹子市長)は福祉施設を運営する16法人と「福祉避難所の確保に関する協定」を締結している。

 市民の避難所生活が長期化した場合、人工呼吸器を使用する在宅難病患者など、日ごろから専門的なケアを受けている要援護者のため、協定を結んだ法人と連携した福祉施設を「協定福祉避難所」として開設。

 協定では、法人が要援護者が必要な福祉サービスの支援に努め、市は介助員の人件費やオムツ代などの費用を負担するなど、役割が分担されている。

 一方、同様のケアは不要だが十分なスペースを必要とする場合には、市内の公民館など「指定福祉避難所」での受け入れを想定している。現在、市が協定を結んでいる法人は次の通り。

 愛和会、葦の会、育成福祉会、育泉会、伊集の木会、沖縄偕生会、県社会福祉事業団、沖縄肢体不自由児協会、沖縄中央福祉会、城南会、誠和会、天仁会、日本赤十字社沖縄県支部、輔仁会、ゆうなの会、陽心会(社会部・又吉俊充)