「可能ならすべての薬を中止せよ。それが不可能ならば、できるだけ多くの薬を中止せよ」。以前外国で出版されたドクターのルールという医師の心得集に掲載された一節です。私が医師に成り立ての頃、安易に薬を処方するものなら「何のために、誰のために」薬を使うのか厳しく先輩医師に詰問されたものです。

 時は流れ医学の発達は目覚ましく、選択できる薬の数も格段に増え、そして患者さんの飲む薬の数は何倍にも増えました。薬の数だけ健康になるのであれば何の問題もありません。こんな患者さんがいました。手術後の経過が思わしくなく1年余の闘病後、私の勤める病院に入院しました。その時に持って来た薬が何と20種類近くありました。人はこんなにも薬が必要なのでしょうか? 慎重に一剤ずつ薬を減らしていきました。とうとう便秘の薬など3種類だけになりました。それから数年、何の不都合も起きていません。

 年々、多剤処方されている患者さんが増加しています。高齢者の増加が根本にあり、医療の高度化、細分化による臓器別診療が多剤処方に拍車をかけています。

 年を取るとさまざまな健康問題が発生します。不眠、しびれ、めまい、腰痛など病のオンパレードです。物忘れがあるといえば認知症の薬、元気がないと言えばビタミン剤、時にはうつ病の薬が出ます。臓器別、症状別に診察を受けると必然的に薬の数は増えていきます。はしご診療していると瞬く間に薬の数は10剤以上になります。薬の数が増えると副作用だけでなく処方ミス・調剤ミスも幾何級数的(きかきゅうすうてき)に増加します。クスリとリスクはまさしく表裏一体なのです。多剤処方による弊害をなくすために医療関係者はどうすればよいのでしょうか?

 鍵は医師です。臓器に薬を処方するのではなく人に薬を出す気持ちが大切です。若い医師の教育も大切です。最小限の薬で最大の効果を得るさじ加減を会得するには相応の歳月が必要です。ベテランの医師が見識を持って指導してほしいものです。

 患者さんはどうすればよいのでしょうか? 自分の健康を一貫して管理し、総合的に診てくれるかかりつけ医を持つことです。薬に対する過剰な期待も禁物ですが、自己判断での薬の中断は危険です。かかりつけ医に相談しましょう。薬剤師も処方に疑問があれば遠慮なく医師に意見する「物言う薬剤師」になって下さい。

 医療保険制度を崩壊させないためにも地域の医療関係者が連携し、効率的な薬剤使用を推進させていきたいものです。(田中康範 大浜第二病院内科)