「薬と毒は似ています」と言うと、驚かれるでしょうが、その意味は以下の通りです。

 人体に対して薬理作用のある物質のうち、有益な作用をするものを「薬」、有害な作用をするものを「毒」と言えるかと思います。

 しかし、実はこの二つに明確な色分けがあるかと言うとそうでもなく、薬も使い方では毒になり、毒と考えられてきたものが薬として利用されたりします。

 トリカブトは昔から毒として知られています(沖縄で妻をトリカブトの毒で殺害した事件があったのを覚えていますか? 琉大法医学部によって解明されました)。

 しかし、トリカブトの成分・附子は多くの漢方薬に含まれ、薬効を示しています。

 蚊はデング熱・ジカ熱等をまん延させる害虫で、蜜蜂は果実の授粉をさせ、蜜蜂、ローヤルゼリーをせっせと作ってくれる益虫、というのは人間の勝手な見方で、蚊も蜂もその生態通りに行動してるのに過ぎません。薬も毒もそのような意味づけでしょう。

 麻薬は末期のがん患者にとっては苦痛を取りのぞく「薬」です。アメリカのいくつかの州ではがん患者はマリフアナを合法的に買えます。

 さて、しばしば耳にするのは「血圧の薬は1度飲んだらやめられなくなる」というもの。高血圧は薬でコントロールする病気ですから、薬を中止したら当然元に戻ります。やめても別に禁断症状もありませんが、高い血圧を放置するのはとても危険です。

 また、極端に副作用を心配される方もいますが、残念ながら副作用ゼロという薬はないはずで、もしあるなら文字通り毒にも薬にもならないものでしょう(漢方薬は副作用がないと言うのは俗説ですし、市販のサプリメントにも摂取しすぎると副作用のあるものもあります)。

 寝たきりの患者はしばしば誤(ご)嚥(えん)性肺炎を起こします。ACE阻害薬という高血圧の薬には咳の副作用があり、この薬を少量投与して咳を誘発し、誤嚥を防いだりします。

 ボツリヌス菌の毒素を注射してけいれんを和らげたり、美容目的(シワトリ)にも使われています。

 アスピリンは古くからの薬で鎮痛・解熱・消炎に用いられてきましたが、今日では、その抗血小板作用から血栓症予防(心筋梗塞、脳梗塞)に処方される事が多いようです。おそらく、その作用は昔は副作用だったと思います。

 ともかく、医師とよく相談し、正しい知識を持つ事が大切でしょう。(中山仁 中山内科医院)