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  • 肥料や農薬を使わず自然に近い形で野菜作りに取り組む農家がいる
  • 生産効率が低く割高だが安心して口にできる食材として需要はある
  • 消費者は「子育てに通じる」と共感。家庭の食習慣を見直す契機に

 肥料や農薬を使わず、植物や土の持つ本来の力を生かしてより自然に近い形で野菜作りに取り組む生産農家が沖縄にいる。農薬や肥料を使う一般的な栽培方法に比べて手間と時間がかかるため、生産量も少なく割高で、ふぞろいな見た目はスーパーでは「規格外」に分類されてしまう。だが、安心して口にできる沖縄県産の身近な食材として、生産者らは消費者に選ばれる栽培の研究と普及に力を入れている。(学芸部・座安あきの)

自然栽培で育てた夏野菜を収穫する中村一敬さん(右)と赤嶺ちとせさん=21日、糸満市喜屋武

 糸満市で農業を営む中村一敬(かずたか)さん(36)=園芸ファームなかむら代表=の畑では今、オクラ、エンサイ、ツルムラサキ、赤シソなど濃い色の野菜が収穫期を迎えている。1年を通して10~20種類ほどを栽培し、コープおきなわの一部店舗や食材にこだわる飲食店、ホテルなどに出荷している。

 中村さんの畑では農薬や化学肥料はもちろん、家畜のふんなど動物性肥料も使わない独自の「自然栽培」に取り組んでいる。微生物の働きを活性化させるために、米ぬかや菜種油のかすなど植物性資材を少量土に加えるが、除草や防虫には薬を使わず、ほとんど手作業だ。

 中村さんも10年ほど前までは農薬と肥料を使う一般的な方法で野菜を作っていた。だが、価格競争で卸値は下げられ、経営的に厳しい状況が続いた。農薬や化学肥料を使えば作物はよく育ち、生産効率は上がる。だが一方で、健康面や環境への影響、作物の栄養価にも懸念を抱いていた。

 「有機栽培」が農林水産省のJAS規格に基づき栽培要件が定められているのに対し、「自然栽培」には明確な定義がない。中村さんは経営を安定させるための生産量を確保しつつ、安全性や品質を高める独自の栽培方法を模索中だ。

 「自然栽培は作り手にとって頂点。安全に対する認知度を高め、食べる消費者を増やしていきたい」と中村さん。

 同じような野菜作りをする農家の仲間5人で「自然栽培プロジェクト」の団体を2年前に立ち上げ、昨年は那覇市や中城村内の学校給食用に野菜を納品するなど、普及活動をスタートさせた。 

■家庭の「食」見直し提案 援農きっかけ開眼

 中村さんら農家の植え付けや収穫などの手伝い(援農)を通して、子育て中の親に食の大切さを発信する赤嶺ちとせさん(37)=食と子育てのnatural主宰=は、自然栽培の現場に触れたことで、家庭の食習慣を見直すきっかけをつかんだ一人。

 中学1年生から生後6カ月まで、1男4女の母親でもある。赤嶺さんは2002年から昨年まで13年間、県外向けに県産品を販売するネットショップの店長を務めていた。東日本大震災後、顧客から県産野菜の取り扱いを求める声が増えたことを契機に、自らこだわりの農法に取り組む農家を訪ねて交流を深め、理解を深めた。

 「地元に暮らす子育て中の親にこそ、身近で安全な食材を知ってもらいたい」と赤嶺さん。「食」を見直したことで、子どもたちの健康状態に目に見えた変化を感じ、ショップを昨年12月で閉店。新たに県内客向けに親子で参加できる農業体験やイベントを企画する事業を始めた。

 「野菜の個性を大事にしながら、自然に任せて育てる栽培方法は子育てに通じるところがある。土に触れる体験を通して、食を見直す“実践”につなげてほしい」と話した。