住宅建築の世界で多くの賞を受賞し、高い評価を得ている1級建築士。コンセプトは「狭小でも豊かに心地よく暮らせる家」。見た目の奇抜さに走ることなく、太陽光エネルギーの導入や周辺環境との調和を重視した家は、住みやすさに加え、たたずまいも美しい。

「アートより、住む人のことを考えた建築が大事」と話す伊礼智さん=東京・目白の伊礼智設計室

 嘉手納町にあった小さな沖縄家屋で生まれ育った。野球に没頭する活発な少年だったが、高校生の時に慢性腎炎となり運動を制限された。進路を模索する中で、テレビのCMで目にした日本を代表する建築家・清家清の手掛けた家に心を奪われた。「建築家になればこんな家を建てられるのか」

 琉球大で建築の基礎を学び、東京芸大大学院に進んだ。当時は安藤忠雄を筆頭に、ポストモダンと呼ばれる先鋭的な建築が隆盛だったが、指導教官が研究していたのは自然エネルギーを利用した、環境と調和した暮らし。「アートとしての建築ではなく、住む人のことを考えた家を」。建築家としての方向性が決まった。

 卒業後に就職した設計事務所では住宅に限らずビルやインテリアなどで経験を積んだ。1坪200万円の仕事を請け負ったことも。「単価が高い家では一級の職人と仕事ができたのが大きい」と振り返る。

 11年後に独立。手掛けた作品が建築家の登竜門ともいわれる業界誌に何度も取り上げられ、知名度は上がった。一方、「もっと一般の人でも手が届く住宅を」と、住宅メーカー、工務店と一緒に低コストのシステム住宅を開発し、高評価を受けた。固定観念にとらわれない若手建築家の育成にも尽力する。

 「僕の設計には自然と共存してきた沖縄の考えが生きている」。柔軟で高質な発想の源には「沖縄」がある。

 「住宅を手掛けるのは社会とつながること。死ぬまでに1軒、満足できる仕事をしたい」と目を輝かせた。(小笠原大介東京通信員)

 ■いれい・さとし 1959年嘉手納町生まれ。琉球大学建設工学科卒業、東京芸大建築科大学院修了。丸谷博男+エーアンドエーを経て96年に東京・目白に伊礼智設計室を開設。「東京町家・9坪の家」でエコビルド賞、OM地域建築賞優秀賞を受賞。日本建築学会会員、東京芸大非常勤講師。