スポーツ領域で起きている事象を道徳的観点から論じる学問領域がスポーツ倫理学である。早大教授の友添秀則氏はスポーツの倫理的研究を二つに大別し、一つはスポーツが人間形成にどのような機能を果たすのかを問うこと、他方はスポーツにおける倫理的逸脱現象に対しどのような倫理的評価を下し、かつ今後の倫理的指針を提供できるかを問うこと、とする。

晃洋書房・1728円/おおみね・みつはる 1981年京都市生まれ。2014年早稲田大大学院スポーツ科学研究科博士後期課程修了。現在、名桜大人間健康学部助教

 本書はタイトルから察せられる通り後者の研究に入る。具体的には野球競技で生じている暴力事象から、「報復死球」「体罰」「対外試合禁止処分」の三つのトピックスを取り上げ、なぜそれらが起こるのかという問いに挑んだ著者の研究成果をまとめた書である。

 そもそも「なぜ私達の直感は、野球の暴力に対して時に肯定的であるのか、その源泉とは何か」。これが著者の問いの原点であったようだ。研究では、倫理的ジレンマが生じる構造的問題を解明するために、「責任」という概念を分析枠にしながら丁寧に論証を進める。その結果、報復死球にはピッチャーのジレンマを生む責務責任の対立構造が、体罰には野球部強豪校の指導者に勝利を追求させる構造的特質が、そして対外試合禁止処分には、コミュニタリアニズムとリベラリズムの二つの観点に基づく責任感の対立構造が、とそれぞれに問題が存在することをあぶりだした。

 体罰も含めた暴力・ハラスメントの問題は、野球界だけでなく現在のスポーツ界において根絶せねばならない手ごわい負の遺産だ。今春、スポーツ庁の委託事業でコーチ育成のための「モデル・コア・カリキュラム」が完成した。そこでは、当然ながらグッドコーチに必要な資質能力が求められ、学び続ける姿勢が問われている。

 一方、著者は指導者に倫理的ジレンマを生じさせている構造的環境を整備する必要性を指摘している。学術的知見によってどちらの側面も問題解決に欠かせないことを改めて気づかせてくれる数少ない書の一つである。(石原端子・沖縄大学講師)