先の参院選で沖縄選挙区では、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設に反対する新人が、容認する現職に圧勝した。これにより沖縄の衆参両院の選挙区を辺野古反対派が独占することになった。しかし安倍政権は「辺野古が唯一」の姿勢を変えない。選挙で示される「民意」とは何なのか。沖縄は問い掛ける。政治制度と憲法の観点から識者に聞いた。

<沖縄の政治状況>衆参全選挙区で反対派が勝利

 

 沖縄県では、翁長雄志知事が米軍普天間飛行場の県内移設断念を掲げて当選した2014年の知事選を機に、辺野古移設を争点に県全域で実施された選挙で反対派が勝利を重ね、民意を示してきた。国政は衆院4小選挙区と参院選挙区2議席全てを反対派が占める。
 14年11月の知事選で翁長氏は、移設に必要な辺野古沿岸部の埋め立てを承認した自民党推薦の仲井真弘多前知事に約10万票の大差をつけ圧勝した。承認に反発して立候補。かつて幹事長も務めた自民党県連とたもとを分かち、社民、共産両党や経済界など保守層の一部を支持基盤に戦った。
 14年12月の衆院選では4小選挙区で辺野古反対派が全勝した。敗れた自民党の4候補は比例代表で復活当選した。
 今年7月10日投開票の参院選は伊波洋一氏が約10万票差で勝利。13年に当選した糸数慶子氏と合わせて参院の2議席を辺野古反対派が独占した。
 地方選でも今年6月の県議選は辺野古反対派が過半数となった。
 これに対し政府は14年の衆院選後まもなく、移設に向け沿岸部で海底ボーリング調査を再開。今年の県議選と参院選の結果を受けても「辺野古移設が唯一の解決策」との発言を繰り返している。

代議制民主主義機能せず 選挙制度の見直しを

政治学者・小林良彰氏

 


 ―沖縄は米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対する民意を選挙で繰り返し示してきたが、国の政策に反映されない。
 「日本では、憲法改正の他は国民投票制度がなく、選挙を通じてしか民意を国政に伝えることができない。民意が反映されないということは代議制民主主義が機能していないということだ」
 「沖縄の民意は全国の一部にすぎず、多数決で決めるべきだとの意見もある。だが国会、特に衆院で多数だからといって、その背後に国民の多数があるとは限らない」
 ―どういうことか。
 「衆院小選挙区で得票率50%程度の当選者が大多数を占める国会で、賛否を多数決で決めたとしても、国民全体で見れば50%の50%、つまり25%の民意となる。投票率が低ければ、さらに小さな民意になる。多数決型民主主義は、多数の意見を反映するとは限らない。これを補うために英国には国民投票制度がある」
 ―地方自治の観点から問題点はあるか。
 「地方自治の理念の一つに、同一水準の負担で同一水準のサービスという『均衡の原則』がある。受益が国全体なら負担も国全体で考えないといけない。安全保障上、在日米軍が日本に必要だとしても、負担が沖縄に集中するのは筋が通らない。本来は国が議論すべきだ」
 ―原因は何か。
 「2000年施行の地方分権一括法で、国と地方の関係を『上下・主従』から『対等・協力』に見直したが、実態は対等になっていない」
 「例えば、国と自治体が対立したときに対処するために第三者機関として設置された国地方係争処理委員会だが、委員は政府が提案し国会の同意を経て総務相が任命する。地方は関われない。係争委が国に不利な判断をした事例は過去にない」
 「地方自治と絡む問題は他の自治体でも起き得る。沖縄以外に住む人は『沖縄の問題』と受け止めているようだが、人ごとではない」
 ―沖縄の民意を政府方針に反映させる方法は。
 「現行制度を前提にする限り難しい。辺野古移設のような重要課題では、国民投票も検討すべきではないか。長期的には民主主義の根幹をなす選挙制度を見直すべきだ」
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 こばやし・よしあき 1954年東京生まれ。慶大教授。専門は政治過程論。著書に「代議制民主主義の比較研究」。

 ■地方分権改革■ 住民に身近な地方自治体の役割を強化するため、国に権限や財源が集中する中央集権体制を改める取り組み。1993年に衆参両院が改革推進を決議したのをきっかけに始まった。2000年に施行された地方分権一括法により、国の仕事を自治体に代行させる「機関委任事務」が廃止されたが、国が自治事務に関し法律や政省令で自治体に義務づける枠組みは残った。地方財源の充実や、中央省庁が持つ権限の移譲はほとんど進んでいないとの課題がある。

移設には住民投票が必要 沖縄は固定的少数派 

憲法学者・木村草太氏

 


 ―沖縄が選挙で、米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対の民意を示しても政権に考慮されない。
 「米軍基地問題に関して沖縄は『固定的少数派』だ。多数決の長所は、今回は負けても、別の機会には多数側になるかもしれないということで納得を得ることだ。しかし例えば人種や民族、宗教によって多数決で常に少数に固定される集団が生じることがある。これが固定的少数派だ。嫌なことを多数決で固定的少数派に押し付けるような決定は正当化できない。そういうことがないようにするために憲法がある」
 ―選挙で示された沖縄の民意をどう考えるか。
 「仮に普天間飛行場を県外に移しても、在日米軍専用施設の相当な部分が沖縄に残り、不公平は続く。この状況を解消するような抜本的な対策を求める姿勢が表れた」
 ―安倍政権は辺野古移設の方針を変えない。
 「日本本土に潜在的な反米感情があるとみているのではないか。本土に移すとなれば、大規模な反対運動が起き、日米同盟そのものが危ないという判断があると思う」
 ―政権の移設方針に法的問題はあるか。
 「移設先を辺野古と決めた法的根拠は、2006年と10年の二つの閣議決定しかない。国政の重要事項にもかかわらず、非常に弱い法的根拠で政府が移設を進めようとしているのは問題だ」
 ―政権は閣議決定で十分とし、安全保障は国の専権事項との立場だ。
 「米軍基地の設置は、環境規制や都市計画、消防など地元行政に多大な影響を及ぼす。基地内に立ち入れないので住民自治の制限になる。それを国会にも自治体の住民投票にも諮らずに進めるのは憲法論として、ない」
 「憲法92条は地方公共団体の組織や運営に関する事項は地方自治の本旨に基づいて法律で定めるとしている。辺野古基地設置法が必要だ。国会審議で沖縄選出議員が賛否を表明する機会もある」
 ―国会で設置法が成立する可能性もある。
 「憲法95条によれば、設置法を制定する場合、法により影響を受ける地元の名護市や沖縄県での住民投票による承認が必要になる。沖縄が『NO』を出したら本当に米軍が出て行くという前提で住民投票をしてほしい」
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 きむら・そうた 1980年、横浜市生まれ。首都大学東京教授。著書に「憲法の急所」「憲法の創造力」など。

憲法95条■ 一つの地方公共団体のみに適用される特別法は、その地方の住民投票で過半数の同意がなければ、国会で制定できないと規定した条文。1949年から52年にかけて、この規定に基づき18自治体で計19回の住民投票が実施された。被爆地の広島、長崎両市への財政優遇措置や、京都市の観光振興に関する法律の策定など優遇される内容で、いずれも賛成多数だった。地方の首長・議員の解職請求に関する地方自治法の規定や、自治体の条例制定に基づく住民投票とは異なる。(共同通信)