■対症療法の結果

 前回の記事(沖縄から貧困がなくならない本当の理由(3)低所得の構造)では、現状維持を優先し、波風を立てることを嫌い、新しいもの、より良いもの、異質なもの、個性的なものを排除し、人を活かすことができない沖縄社会そのものが、貧困を生み出している最大の原因ではないかと述べた(※注1)。貧困問題は経済問題である。人を活かせない社会が経済的に停滞して貧困を作り出すのは、当然のことだろう。

国際通り

 変化が常態化している現代社会において現状維持を図ろうとすれば、時間の問題で商品が陳腐化したり、他者にシェアを奪われたりして、持続性を失うことが一般的だ。革新的な事業力を持たない(持つ必要がなかった)沖縄の経営者が長らく安定的に事業を継続することができたのは、商品やサービスの質を問わない保守的な消費者のおかげであり、低賃金を甘受する労働者によるところが大きい。

 これに加えて、沖縄社会を複雑にしているのが基地経済である。特に大田昌秀革新県政以降、基地反対運動が活発になるほど、沖縄関連予算が増額される傾向が顕著である。補助金や税制優遇などの形で投下される「沖縄振興費」の多くは、沖縄経済の基本構造を維持する方向で使われがちで、そのために社会がさらに固定化され、イノベーションが止まり、貧困への悪循環が強化される。

 もちろん誰もそれを望んだわけではないと思うが、沖縄の本土復帰以来44年間、日本政府と沖縄県政が実行してきた数々の沖縄振興政策、最近注目されている貧困対策など、そして基地反対運動は、それが保守系主導であれ革新系によるものであれ、結果として社会の生産性を低下させ、経済的自立を阻み、沖縄社会を強くしてきたというよりもむしろ弱め、結果として貧困を生みだしてきた可能性がある。県政が保守であろうと革新であろうと、沖縄社会の構造に変化がなかったのは、補助金を軸にして対症療法を積み重ねてきたためだ(※注2)。

■無敵の沖縄企業

 このような沖縄経済の基本構造は、沖縄企業を強力に支えてきた。意外に感じる人がいるかもしれないが、これまでの沖縄経済は、日本のあらゆる経済圏の中でも特に参入障壁が高く、外資や本土大手企業からの攻勢に対して極めて抵抗力が強い地域だった。

 連結売上6兆円を超えるイオンは、売上1400億円ほどしかない地場のスーパー、サンエーに対して、利益の額では10倍の差をつけられている。資本市場のガリバー野村證券は、規模や商品力ではまるで競争にならないはずのおきなわ証券に苦戦のしどおしだ。メガバンク東京三菱UFJやみずほ銀行は、琉球銀行、沖縄銀行に歯が立たず、その他の大手は沖縄に支店すら作れない。世界の新日鐵住金が拓南製鉄の後塵を拝し、規模の経済が比較優位を生むはずのビール業界でも、オリオンビールが、キリン、アサヒ、サントリーを圧倒的に抑えてきた。日本の4大紙読売、朝日、産経、毎日は、沖縄タイムス、琉球新報の牙城を崩せず、沖縄県内で印刷すらできない。旅行代理店最大手JTBのパックツアーは、沖縄ツーリストや国際旅行社のオーソドックスな企画旅行にかなわず、数年前スカイマークが那覇−宮古便に参入して価格破壊を試みたときも、日本トランスオーシャン航空(元の社名は南西航空という地場の航空会社)に完敗した。

 この傾向は、沖縄の大半の産業に当てはまる。沖縄の地場産業は、規模では10倍、100倍のグローバル企業に対して、信じがたいほどの競争力を有してきた。これほど地場産業が強い地域は他ではあまり考えられない。

 逆に考えると、(a)賃金が上昇して企業収益が圧迫され、(b)ウチナーンチュが自分らしい人生を歩むようになって自由な消費性向が生まれると、沖縄経済の基本構造を支えてきた大前提が変わることになる。そして、まさに今、この二大潮流が沖縄に押しよせている。

■人件費が上がる!

 第一の変化は人口動態だ。今後、労働需給は多くの人たちの想定を超えるほど逼迫(ひっぱく)し、沖縄(に限らず)社会全体の経済構造を大きく転換させる可能性がある。

 すでに一部の産業では有効求人倍率が急激に上がり始め、建設業界では人手不足で公共入札が不調に終わったり、飲食業では黒字でも店をたたむケースがあるという。労働者が不足すれば、さすがの沖縄も大幅な賃金の上昇に見舞われるだろう。労働者の報酬を大幅に引き上げながらも事業収益を確保するためには、異なる発想で事業を展開し、イノベーションを起こし、より大きな収益を生み出す事業体質を作り上げなければならない。今まで沖縄がもっとも避けてきたことである。

 今後長期にわたって、人が最も稀少な経営資源になる。どれだけ商品力があっても、どれだけ販売力があっても、顧客のニーズに応えることができても、厚い利益率が確保できていても、人を惹きつけ、引き止めることができなければ、事業が成り立たない時代がやってくる。賃金や福利厚生費の大幅な上昇はもちろん、大半の非正規雇用者を正規職員に切り替え、フレックスタイムを含む柔軟な労働条件、託児所などの施設、育児休暇、介護休暇、などの制度を整備し、自由で働きがいのある組織と仕事を提供し、それでもなおこれらの負担をカバーするだけの生産性を生み出さなければならない。

 すでに始まっている急激な労働者不足は、沖縄の貧困、ひいてはそこに起因している多くの社会問題を劇的に改善するチャンスでもある。もちろん、その前提として、経営者が発想を変えて大きな生産性を生み出す事業力を発揮しなければならない。

 例えば人件費が低いからという理由で、沖縄に山のように誘致されたコールセンター事業は、発想を大きく転換しなければならなくなるだろう。コストセンターという位置付けで、このイメージに合う費用を支出できる事業会社は少ないからだ。

 例えばその答えは、コールセンター事業をプロフィットセンター化することかも知れない。一つの例として、アメリカには「ザッポス」という靴のネット販売会社がある。ザッポスのコールセンターは徹底した顧客サービスで有名で、電話を切らずに一人の顧客に最長8時間対応するという「伝説」が生まれている。ザッポスのサービスに触れて感動した顧客のリピート率は高く、一般的にはコストセンターであるはずのコールセンターが、強力な営業部門としてプロフィットセンター化しているのだ。経営者が発想を転換すれば、労働者の生産性が飛躍的に増大し得るという好例である。