1945年8月6日に広島市の爆心地で被ばくした広島二中の1年生、山下明治君は母親にみとられ、息を引き取った。死期が迫り、母親が「お母ちゃんも一緒に行くからね」と声を掛けると、山下君は「あとからでいいよ」と答え、「お母ちゃんに会えたからいいよ」と話した

▼このやりとりは、広島テレビが69年に放映した番組「碑(いしぶみ)」の一部である。「碑」は、原爆で生徒321人全員が亡くなった広島二中1年生の遺族の手記を女優、杉村春子さんが朗読する

▼広島テレビがインターネットで配信する番組を見た。1年生の写真の中で、杉村さんが静かに語り掛ける。12、13歳で命を失った生徒らの最後を伝える語り部を演じている

▼澁江茂樹君の母親は7日午前5時、命が絶えたばかりの息子の遺体を発見した。「ほおを流れた涙がまだ乾いていなくて、朝日にきらりと光っていました」とつづっている

▼番組は、是枝裕和監督によって再制作され、劇場版「いしぶみ」として7月から各地で上映されている。杉村さんと同じ広島出身の女優の綾瀬はるかさんが朗読を担当する。是枝監督は「本作を貫くのは悲しみではなく、怒りです」とコメントしている

▼なぜ少年たちは若くして命を奪われなければならなかったのか。原爆投下から71年目の夏、いま一度考え、語り継ぎたい。(与那原良彦)