沖縄の戦後が、「民衆史」の視点で初めて描かれた話題の書である。

岩波書店・2700円/もり・よしお 1968年横浜市生まれ。大阪大大学院博士後期課程修了。同志社大〈奄美-沖縄-琉球〉研究センター学外研究員。著作に共著「ひとびとの精神史」など

 著者の目的は、戦後70年以上も継続している〈捨て石・占領〉体制下で、「それを終わらせようとするひとびとがつくり、あゆんできた歴史の総体」に普遍の相を見いだし、近代的自我主体を超え、国民国家を相対化する思想を沖縄から発信することにある。

 だから、抵抗主体が屹立(きつりつ)して国家に対峙(たいじ)する英雄譚(たん)ではない。むしろ歴史から名を消したひとびとが紡ぎ繋(つな)いできた運動の継続に焦点を当て、「オール沖縄」という上昇気流に乗って俯瞰(ふかん)することもせず、「ガマから辺野古まで」という副題に沿って、さらなる運動の混沌(こんとん)に分け入ろうとする。

 前著『地(つち)の中の革命』では、占領下の「島ぐるみ闘争」に至る地下水脈を掘り起こし、その闘争エネルギーの根源を、〈捨て石・占領〉体制下でひとびとが募らせていく得体(えたい)のしれない「剰余」と命名した。この割り切れない「剰余」とは、どのような「擬制的論理」にも「包摂されない、回収しつくされない」ほど、一人ひとりに刻まれた「身体的確信」である。

 本著では、その「剰余」が「野生のデモクラシー」を創成する過程を丁寧に描く。チャルマーズ・ジョンソンをして「(沖縄は)住民が自力で勝ち取った民主主義をみずから享受している日本で唯一の地域社会である」と言わしめた、「中心がない、つながり・ひらかれゆく」民主主義の現場である。

 そもそも沖縄は、日本軍の「時間稼ぎの捨て石」作戦の結果、「ありったけの地獄を集めた」と米軍が戦史に刻むほどに膨大な「血を流して得た」戦果であり、手放したくない占領地である。加えて、「天皇メッセージ」が沖縄の植民地化を裏書きし、米軍による無期限占領を正当化させた。それだけに主権回復への道は険しい。だからこそ著者は、この民衆史を「愛の歴史学」の可能態として拓(ひら)こうとする。「戦争と革命」の世紀を相対化する人類愛と隣人愛とジェンダー共生の思想である。この展望があるからこそ、本書は「歴史専門書」に終わらず、野生の思考(ブリコラージュ)に開かれている。(勝方=稲福恵子・早大教授)