〈イチローの3日分だよ我が年収〉。サラリーマン川柳の過去の秀作で、ほろ苦い思いがこみあげてくる一句である

▼電卓をたたいて天才バッターの時給を計算しようと試みたが、数字を見るのが怖くてやめた。サラリーマンには別世界の人であり、野球少年には仰ぎ見る憧れの存在だ

▼そんな天才も今回、「産みの苦しみ」を味わった。米大リーグ、マーリンズのイチロー選手がメジャー通算3千安打を達成した。ベンチに戻るといつものクールさは消え、サングラスの奥で光る涙が頬を伝った

▼数々の記録を塗り替えた天才バッターは努力の人である。小学6年生の時の「僕の夢」と題した作文は「一流のプロ野球選手になることです」と始まり、「(そのためには)練習が必要です」と綴(つづ)っている

▼父親との二人三脚の猛特訓は有名で、作文にも「3年生の時から今までは365日中360日は激しい練習をやってきました」とある。夢を追い、ひたすら投げ、打ってきたのだろう

▼薬物に手を染め人生を棒に振った元スター選手がいた。野球賭博に手を出して選手生命を絶たれた若手投手もいた。海の向こうから届いた朗報は、球界を覆っていた暗雲を一気にふり払ってくれた感じがする。「背番号51」に勇気づけられ、「僕の夢」を追って汗を流す野球少年の姿が目に浮かぶ。(稲嶺幸弘)