誰も知らなかった「奇跡の森」。1本、2本であっても毎年、その幻想的な花の開花がニュースになる「サガリバナ」だが、石垣島北部の平久保半島では近年、何と4万4千本余の群落が発見された。この発見を受け、西表石垣国立公園の指定範囲は拡大され、2016年、石垣島北部のサガリバナ群落地とその周辺は国立公園に編入された。

南山舎・3240円

 大塚勝久氏は5年間、毎年、夏になると、この「奇跡の森」に籠(こも)りきりになり、サガリバナと平久保の動植物の撮影を続けてきた。それら3万枚におよぶ撮影カットから自ら83枚を厳選し、まとめたのがこの作品集である。

 だが、花を撮るのは難しい。ただでさえ「花は美しいもの」と誰しも先入観があるだけに、「作品」として成り立たせるには、よけいにハードルが高い。しかし、この作品集は、サガリバナを主題にさまざまな旋律を奏でる変奏曲を思わせる出色の出来栄えだ。

 サガリバナは夜、開花して翌朝には落花する。そのため本作では、月や天の川、並ぶ惑星、離島の深い夜空を埋め尽くす無数の星粒、といった天体も多く写されている。一夜にして散るはかなく美しい花の命の「今」と、「永遠」を思わせる何千、何万光年を経て、たどり着く星の光との競演。画面からは花の甘い香りが漂い、星の流れる硬質な音までが聞こえてきそうだ。

 大塚さんは「奇跡の森」の第一発見者である米盛三千弘・邦子さん夫妻らと共に「平久保サガリバナ保存会」を立ち上げ、その保全に汗を流してきた。そして「写真家としての使命を果たすため」森を記録し続けたという。

 花は美しい。ただ、その美しさは森の豊かな生態系に支えられているからこそであり、そうした自然は未来の子どもたちからの大切な預かりものなのだ、という強い自覚が大塚さんにはあるのだろう。だからこそ、写し留められた、はかない花の今この瞬間に、星のように輝く永遠の芸術性が感じられるのだ。(大森一也・南山舎編集)