天皇陛下の背後に、障子の木枠が映っていた。鉄格子に見える時もあるだろうか。ビデオメッセージからは世襲の運命を受け入れて向き合う意志と、退位もままならない苦悩が伝わった

▼憲法は人権尊重や法の下の平等をうたうが、皇族だけは除外される。昭和天皇の弟、三笠宮さまは1946年、生前退位を認めない現皇室典範の案について「死以外に譲位の道を開かないことは新憲法の『何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない』という精神に反しないか」と問うた

▼天皇制が戦後も存続したのは、マッカーサーが日本占領に利用したからに尽きる。憲法の基本理念との矛盾は放置された。それが今、当事者の訴えとなって噴出した

▼一方で、「生前退位の意向」報道とビデオ公表が実際に政府を動かしたことは見過ごせない。制度の検討が正式に始まる。結果を見れば天皇の政治介入で、これも憲法に反する

▼当初の報道を表向き否定した宮内庁は、違憲性をよく知っていたのだろう。制度を考えるのは私たちだ。この点をうやむやにしては、あしき先例になる

▼戦後が始まった玉音放送からきょうで71年。象徴天皇制は国民の多数に支持され、少数の皇族には巨大な犠牲を強いてきた。無理が生まれている。論点は生前退位だけではない。皇族の人権と国民主権をもっと語りたい。(阿部岳)