オバマ政権が検討している核兵器の先制不使用政策について、安倍晋三首相はハリス米太平洋軍司令官に対し、「北朝鮮に対する抑止力が弱体化する」として反対の意向を伝えた。

 15日付の米紙ワシントン・ポストが、米政府高官の話として報じた。

 核政策に関して、被爆国の日本の中に深刻な二重構造が存在することが、あらためて浮き彫りになったといえる。

 仏教用語の「顕教」と「密教」という言葉を使ってたとえると、被爆体験を踏まえ切実に核廃絶を求めてきた一般庶民の思いは「顕教」、米国が提供する「核の傘」に依存し核兵器禁止条約の制定にも不賛同の立場を取る政府の姿勢は「密教」ということになる。

 広島市の松井一実市長と長崎市の田上富久市長は10日、米国の核政策見直しを後押しするよう政府に求める書簡を出した。

 核大国の米国が、敵の核攻撃を受けない限り核兵器を使用しないという先制不使用政策を採用すれば、核軍縮の動きに弾みがつくのは確実だ。

 報道が事実だとすれば安倍首相は、広島を訪問したオバマ大統領が「核のない世界」の実現に向け先制不使用などの具体策を検討し始めたこの時期に、核抑止力の低下を懸念し、足を引っ張るようなことを言ったことになる。

 顕教と密教の二重構造が顕著であればあるほど、被爆国の説得力は弱まる。核廃絶を進めるための外交力も、足元を見られ弱体化せざるを得ないだろう。

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 8月6日、広島市で開かれた平和記念式典で、安倍首相は「核兵器のない世界に向け努力を積み重ねる」と述べたが、具体的な政策には触れなかった。

 式典後、被爆者団体は、被爆国として核兵器禁止条約の制定を働きかけるよう安倍首相に要望したが、安倍首相はここでも、前向きな対応を示すことはなかった。

 2013年に安倍政権が閣議決定した「国家安全保障戦略」は「核兵器の脅威に対しては、核抑止力を中心とする米国の拡大抑止が不可欠」であると強調する。

 米紙によると、首相は、米国が核の先制不使用を宣言すれば北朝鮮などに対する核抑止力に影響が生じ、地域紛争のリスクが高まる、とハリス米太平洋軍司令官に懸念を伝えたという。

 「先制不使用を宣言すれば」「地域紛争のリスクが高まる」という主張は、厳密な検証に耐えうるのだろうか。

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 米国の核兵器が北朝鮮による攻撃を思いとどまらせる抑止力になっている、というのはほんとうだろうか。

 核抑止力に頼りすぎると、米国が核兵器の削減を進めたとき、「抑止力が低下するからやめてくれ」と言いだしかねない。

 米国がいざというとき、日本防衛のために核使用に踏み切るかどうかは神のみぞ知る話。顕教と密教の二重構造を解消するのは容易でないが、核廃絶に向けた国家意志が希薄になってはいないか。それが気がかりだ。