8回途中までの戦いぶりに会場の誰もが新王者誕生を期待した。21日のボクシング東洋太平洋スーパーフライ級王座戦。那覇市出身の挑戦者・翁長吾央選手(36)は8回終了間際、それまでよけていた王者の右フックをまともにくらった

▼痛恨のダウン。「こんなに効いたのは初めて」と言わしめた形勢逆転の1発。立ち上がったが失速し、12回判定で悲願のベルトを逃した

▼作家の沢木耕太郎氏は著書「敗れざる者たち」(文春文庫)で、ボクシングの魅力を「たった1発のパンチで世界が一瞬のうちに変わる」と書く。翁長選手が左ストレートを決めて前のめりになり、それまで警戒していた王者の射程に入ってしまったところを打ち抜かれた

▼王者の右をラッキーパンチとみる向きもある。勝敗を分ける100分の何秒かのため、何千、何万回もの地道な反復練習の末に放たれた1発は、決して偶然ではない。王者が強かったのだ

▼2010、12年、2度のベルト挑戦に失敗。沖縄で再起後10連勝し、この試合に勝って世界に挑む計画は一瞬で消えた。でも、決して絶望的な内容ではなかった

▼沖尚高時代、高校3冠を達成した若者が自分を信じ、「36歳のおっさん」になっても拳を磨いている。進退は明言していないが、21年間のボクサー人生にどうケリをつけていくのか。最後まで見届けたい。(磯野直)