沖縄で目を覆いたくなるような無法状態が横行している。僕は、遠く離れた本土(東京)から、時折、現地に取材に向かうとはいえ、基本的にはそのひどい状況を手をこまねくように眺めているに過ぎない。だから、沖縄の地元紙にこんな文章を書いていることがつらくなる。無法状態はどこで起きているのか。実は、沖縄の米軍基地の存在そのものが、無法状態を招いている根源的な問題としてある。だが、ここではそれについては触れない。紙面が足りなくなるから。

ヘリパッド建設工事着手に抗議し、機動隊に排除される座り込みの市民=7月22日午前、東村高江

 まず、東村高江の米軍ヘリパッド建設現場周辺で起きている無法状態から記そう。これは一体何なのか。島尻安伊子・沖縄担当大臣が落選した7月10日の参議院選挙の投票締め切りからわずか9時間後、夜明けとともに高江N1ゲートからの資材搬入が始まった。周到に準備されていた動きだ。

 沖縄県民の民意が選挙を通じてどのように示されようが、そんなことは知ったことか、米軍ヘリパッド建設は至上命令だ、とでも言わんばかりの露骨なタイミング。島尻氏を大差で破った陣営は祝勝気分も吹っ飛んだことだろう。こういうことを狙いすましたように実行する冷厳さは、戦後歴代政権の中でも突出しているのではないか。

 7月22日には、N1ゲート付近にあった反対派住民のテントや車両等を、機動隊を導入して強制排除した。その機動隊員は約500人が、東京の警視庁、千葉県警、神奈川県警、愛知県警、大阪府警、福岡県警から派遣されてきている。通常は、沖縄県公安委員会からの援助要求という形式だけでもつけるものだが、今回の場合、県公安委の会議は全く開かれていない。そのことを市民団体などから追及されると、県公安委は「持ち回りで決めた」と釈明するありさまだ。

 「持ち回り」の証左として、7月12日付県公安委の「警察職員の援助要求について」なる文書が存在するが、何とその前日の11日付で、警察庁から、警視庁や各県警本部あてに「沖縄県警察への特別派遣について(通知)」という文書が出されていたことがわかっている。「沖縄県公安委員会から関係都道府県公安委員会あて要請が行われる予定であるが、派遣期間及び派遣部隊については次のとおりであるから、派遣態勢に誤りなきを期されたい」。これはどういうことか。

 県公安委の要請に基づくどころか、実際は警察庁=国が主導して派遣を決めてしまっているということだ。警察法第60条にはこう定められている。〈都道府県公安委員会は、警察庁又は他の都道府県警察に対して援助の要求をすることができる。2 前項の規定により都道府県公安委員会が他の都道府県警察に対して援助の要求をしようとするときは、あらかじめ(やむを得ない場合においては事後に)必要な事項を警察庁に連絡しなければならない。〉一体どこに警察庁が先回りして援助の要求を前提に準備してもよいなどと記されているか。県公安委など警察庁の出先機関みたいのものということか。法の趣旨を逸脱していないか。

 そのようにして派遣された機動隊員らのヘリパッド建設現場付近での警備活動のありようが酷(ひど)い。何の根拠も示さずに生活道路である県道70号線を閉鎖し、通行止めにしている。反対派市民らに対する物理的な力による規制のありよう(老人や女性にけが人も出ている)に加えて、取材活動にあたっていた本紙・沖縄タイムスの記者や琉球新報の記者らを強制排除し一時的に身柄を拘束した。由々しい取材妨害である。その際の動きは動画でも撮影されている。

 新聞労連は「現場で何が起きているのかを目撃し伝えることは、地元紙はもとより沖縄で取材活動を続けている全ての報道機関にとって大切な使命だと考える。実力行使で報道を妨害する行為は、絶対に認めるわけにはいかない」として抗議声明を出した。

 反対派の中から逮捕者も出ているが、その逮捕自体が違法性を疑われている。7月22日の強制排除では、ある機動隊員が反対派の顔面を正拳で殴っていた。同じことを反対派が機動隊員に対して行えば公務執行妨害で確実に逮捕される。つまり「上から」お墨付きをもらった「物理的な力の行使」はやりたい放題ということか。これでは組織暴力団員と変わらないではないか。

 誰がそれを指示して、そのようにやってもよいと黙認しているのか。最近アメリカでは、無抵抗な黒人男性を警察官が射殺したことなどから各地で暴動が発生した。警察の活動のありように国民の側からチェックが働くのだ。No Justice No Peace.(正義のないところに平和は来ない)。

 アメリカ社会には辛うじてそれがコンセンサスとしてある。高江には、ない。

 高江における「無法状態」について記してきたが、これらの出来事は、本来の司法の機能が健全に働いていれば、何らかの歯止めが作用するものである。警察も検察も、大きな意味では、法をつかさどる職業だったはずである。そして裁判官は「司法」の最たる守護者だったはずである。

 だが、現実はどうだろう。福岡高裁那覇支部を舞台に、辺野古の埋め立て承認取り消しをめぐって、国が沖縄県を訴えた違法確認訴訟が8月19日に結審した。国と県が互いに相手を訴えあい、裁判所が異例の「和解」を呼びかけ、それに双方が乗った形が無残にも崩壊し、今度は国が県を訴えなおすという異常な経過をたどってきた裁判だ。

 法廷では、裁判長が翁長知事に対して「県が負けて最高裁で判決が確定したら取り消し処分を取り消すか」とただしたそうだ。審理中に、まるで県が敗訴することを前提にするかのように、最高裁の確定判決に従うかどうかを質問したのだから、ユニークといえばユニークな裁判長である。判決はこの裁判長によって9月16日に言い渡される。

 司法が機能しない国は無法がはびこる。無法状態にある沖縄を僕らは遠くから傍観しているだけでよいはずはない。(テレビ報道記者・キャスター)=随時掲載