本書は小熊誠氏を編者に気鋭の研究者たちの論をまとめている。

「〈境界〉を越える沖縄」 森話社・3240円/おぐま・まこと 神奈川大教授。共著に「日本の民俗12 南島の暮らし」▽執筆者は武井基晃、上水流久彦、八尾祥平、平井芽阿里、越智郁乃、森幸一の6氏

 世界のウチナーンチュ大会が開催される今年、注目すべき論文が森幸一氏の「二つの憑依宗教文化の接合」である。森氏は戦前に両親に連れられてブラジルに移住した久志村出身の12歳の少女(本書ではMNと表記)が神を拝むべく生まれついており、幾度もの神秘体験を経験し、カルトセンターで霊性を開花させ、次いで民衆カトリックの神父に奇病を治癒してもらったことを語る。

 MNは非日系人依頼者と沖縄系人依頼者それぞれに対応する憑依霊を使い分け、救済分業体制をしき、独立した後、「キリストへの愛心霊協会」を設立し、カルトセンターのリーダー、メジウンとしての活動、ユタ的霊能者としての活動を行う。

 ブラジルや沖縄のユタの神霊に感応し、人々を霊的に導くMNは人と神、沖縄とブラジルの境界を超え、境界を再統合する力を持つ。それは境界性を内に持つ沖縄出身の人々に生来備わった類い稀(まれ)な力である。

 一方、編者の小熊氏は「日本と中国の境界を越える門中」で士族の門中制度が日中の社会・文化の導入について主体的に模索し、選択し、判断して構築されたことを述べる。

 ほか、「歴史を越える門中」で武井基晃氏は家譜と現代の門中団体について述べる。「八重山にみる日本と台湾の二重性」で上水流久彦氏は八重山から台湾への複雑な視点を指摘し、「地域と地域の境界に埋もれた歴史を思い起こす」で八尾祥平氏は琉球華僑の視点を含めた歴史記述の必要を述べる。

 「海を越える神役」で平井芽阿里氏は宮古島西原の神役組織が本土在住の男性たちも成員とし、再編成されていることを指摘。「海を越える墓」で越智郁乃氏は沖縄県内の離島から沖縄島へ墓を移した人々の葛藤や情緒に注目し、従来研究を乗り越える知見を示す。

 力溢(あふ)れる論集を心から賛美する。(福寛美・法政大学沖縄文化研究所兼任所員・法政大学兼任講師)