急に増水した近くの川から土砂や流木とともに押し寄せた濁流。水位は天井近くまで達していた。逃げ場のなかった平屋の施設内は、パニックに陥っただろう

▼台風10号の豪雨で川が氾濫し、岩手県岩泉町の高齢者グループホームで、入所者9人全員が亡くなった。町が避難指示を出さず、高齢者らの避難開始を求める避難準備情報の意味を施設側が知らなかったことが指摘されている

▼問題はまだある。被災時、施設にいた職員は1人。夜間は1人で対応する施設が多いと聞くが、車いすの2人を含めた認知症の高齢者9人を避難させることがそもそも可能なのか

▼「1人では厳しい」と話すのは南城市のグループホーム「美ら里さしき」の伊集清美管理者。やはり9人の高齢入所者がいるが「『早く逃げましょう』と言っても理解できる人とできない人がいる」

▼高齢者グループホームは、認知症のお年寄りが少人数で、食事、入浴、排せつなどを介助するスタッフと一緒に家庭的な雰囲気で生活する場だ。災害時や緊急時のマニュアルは個々の施設で定める

▼マニュアルはあっても職員に周知され、実際に生かされるとは限らない。何より人の命を預かっているんだと自覚し、全員避難を想定したきちんとした体制をつくることが重要だ。そうでないと入所者とその家族は安心できない。(玉寄興也)