何千年も生きた山の主の蛇が、今まさに天に昇って龍にならんとするその時、人間の男に姿を見られたおかげで望みが断たれる。しかし、男はそのことを決して口外しないと誓い、蛇は望みを果たす。男はその後、村一番のお金持ちになり幸せに暮らす。しかし、ある日、子どもたちへの戒めにと、幸せは蛇との約束を守ったおかげである、約束は守らなければならない、と昔の不思議な出来事を話してしまった。それから男の家は不幸せな事が続き、貧乏のなかで家族は次々と死に絶えてしまった-という八重山の昔話の絵本。

南山舎・1080円

 片ページに文章、片ページに切り絵の横長の本で、半分に折り曲げ紙芝居のように読み聞かせすることもできる。

 切り絵が昔話によく合うが、描いた熊谷溢夫さんは実家がお寺で、農繁期になると母親が地域の子どもたちを集め、昔話を紙芝居にして見せていたのだそうだ。熊谷さんは小学校高学年だったが、母親から頼まれて紙芝居を描いていた。そのときの体験から昔話に興味を持ち、後年、八重山に移り住んでからも島々で話を聞いて絵を描いてきた。今現在も昔話の再話を南山舎の月刊誌「やいま」で連載中である。

 ところで、この本には方言表記が併記されている。各地で方言が消滅しかけている昨今、方言で子どもたちに語り聞かせてほしいという望みからだ。しかし、出版後、こんなことがあった。物語の舞台になっている石垣島東部の人から「なんでこちらの方言で書かないんだ」という疑問が投げかけられたのである。たしかに記載された方言は、同じ石垣島でも昔からの中心市街地の言葉ではあるが…。八重山の昔話として広く共有できるものだと思うが、どこの方言で、と考えると難しい。

 どの島どの村でも、かつてはその地域の方言で昔話が語り継がれてきたはずだ。昔話が活字になり目で追うばかりになった現代、もう一度、それぞれの地域の方言で読み聞かせ、語り継いでもらいたい。(大森一也・南山舎編集)