メーテルリンクの童話「青い鳥」(新潮文庫)に、この世に生を受ける子どもたちが「未来の王国」からそれぞれの親がいる地上に降り立とうと順番を待っている場面がある

▼われ先にと、はやる子どもたちの中に、何故かこう叫び泣きじゃくる一人の子が出てくる。「いやだ。いやだ。行きたくないんだ。生まれたくなんかないんだ。ぼく、ここに残っていたいんだ」

▼児童虐待に関するニュースを見聞きするたび、そのセリフを思い出す。被害に遭った子の「心の声」に聞こえるからだ。周囲が適切に対応していれば防げたかもしれないと考えると、やりきれなさが残る

▼今回の数字にも、ため息が出た。2014年度に虐待で死亡した18歳未満の子どもが44人だったことが厚生労働省のまとめで分かった(17日本紙)。1歳未満が27人で過去最高の6割超。加害者が実母だったのも6割超だった

▼「望まない妊娠」など母親が抱える問題が目立つ。「小さな命」を守るための体制整備は進むが、虐待件数は増加の一途をたどっている

▼「死にに行くんじゃないぞ。生まれに行くんだ。さあ、行け」。先の童話で、王国の番人はこう諭して嫌がる子を地上に送り出す。「やっぱり行かなければよかったんだ…」。虐待を伝える記事に目を落とせば、悲しいつぶやきが聞こえてくる。(稲嶺幸弘)