国会は30日から衆院予算委員会を舞台に本格的な論戦に入った。改憲に賛同する勢力が衆参両院で3分の2を超える議席を確保し、憲法改正の国会発議が可能になったのを受け、国会では連日、憲法を巡る質疑が続いている。

 だが、「なぜ変えるのか」「どこを変えるのか」「なぜ今、変えるのか」といった最も大切な議論が深まらない。

 2012年4月に発表した自民党の憲法改正草案について、27日の代表質問で民進党の野田佳彦幹事長が撤回を求めたのに対し、安倍晋三首相はこれを拒否し、「大切なことは各党がそれぞれの考え方を示すことだ」と挑発した。

 自民党の憲法改正草案は現行憲法を大幅に書きあらため、「天皇の元首化」「国防軍の保持」を盛り込むなど、極めて保守色、復古色の強い内容である。

 改正草案を前面に押し出せば野党の反発は必至だ。このため、草案を棚上げする考えも党内に浮上。安倍首相も合意形成を重視し、自民党の草案にこだわらない姿勢を示した。

 安倍首相は「憲法を国民の手に取り戻す」と主張する。それはどういうことなのだろうか。

 戦後初めての改正という「事実」そのものを重視し、改正の中身については「緊急事態条項」「財政規律条項」「環境権」など、各党が合意しやすい項目に絞って柔軟に対応する、ということなのか。

 「憲法改正」という四文字熟語は飛びかっているが、その中身は依然として曖昧だ。

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 衆参両院の憲法審査会で議論を始める前に、自民党は、憲法改正草案の位置づけを明確にすべきである。

 「撤回はしない」と安倍首相は強調する。議論のたたき台ならば、たたき台の性格づけをはっきりさせたほうがいい。

 憲法改正草案は、「天皇の元首化」をうたっているが、生前退位の気持ちを強くにじませた天皇陛下の8月のお言葉と、はたしてどのようにつながるものなのか。

 陛下の口から語られたのは、「象徴とは何か」「国民統合の象徴であるために何をなすべきか」ということを即位以来、一人で考え続け、実践してきた事実であった。

 憲法改正草案は、表現の自由を定めた現行憲法第21条に新たに条文を追加し、「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動」は認められない、と表現の自由に制約を課している。

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 憲法改正でもしこの条文が憲法に盛り込まれることになれば、東村高江周辺でヘリパッド建設工事に反対する住民の抗議行動も「公益及び公の秩序を害する」と認定される恐れがある。危うい条文だ。

 権利を積極的に保障することよりも、随所に「公益及び公の秩序に反してはならない」との文言を挿入し、権利保障に制約を加えようとしているのが自民党憲法改正草案の特徴である。

 メディアでは「本丸は9条」とか「お試し改憲」という言葉が飛びかっているが、何をしたいのか国民に明確にすべきだ。