アフリカ・南スーダンで国連平和維持活動(PKO)に当たる陸上自衛隊に「駆け付け警護」などの新任務を与える方向で政府が検討している。今年3月に施行され、なお憲法違反の疑いが強い安保関連法に基づく任務である。

 離れた場所にいる国連やNGO職員、他国軍兵士らが武装集団に襲われた場合に武器を持って助けに行くことが駆け付け警護である。自衛隊の武器使用を正当防衛や緊急避難に限っていた条件を緩和し、警告射撃ができるようになった。武装集団が自衛隊を敵とみなせば交戦する事態も想定される。

 ロイター通信はこの1週間で政府軍と反政府勢力の戦闘による死者が双方で少なくとも60人と伝えた。国連南スーダン派遣団も「この数週間、各地で暴動と武力衝突の報告が増加している」と懸念を表明した。治安情勢は依然、不安定なのである。

 稲田朋美防衛相は今月8日、首都ジュバを視察し「落ち着いている」と感想を述べたが、稲田氏が訪れた日もジュバに通じる幹線道路で政府軍と反政府勢力との戦闘でトラックが襲撃され、21人が死亡する事件が起きている。

 ジュバでは7月に起きた双方の大規模な銃撃戦で270人以上が死亡、中国のPKO隊員も犠牲になっている。

 稲田氏のジュバ滞在時間はわずか7時間であり、現地の情勢と同氏の認識に乖(かい)離(り)があるのは明らかだ。

 自衛隊員の命が懸かっている。政府は現地の実情を厳しく精査し、国会でもっと論議を深める必要がある。

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 駆け付け警護を付与する対象となるのは、現在派遣されている陸自第7師団(北海道千歳市)中心の部隊と11月に入れ替わる陸自第9師団(青森市)を中心とする約350人の部隊である。

 2011年に独立した南スーダンでPKOは当初、道路などインフラ整備の国造り支援が主な任務だったが、13年2月に政府軍と反政府勢力との内戦が始まり、最重要任務は住民保護に変わった。

 問題は自衛以外の武力行使を禁じた憲法に反しないための歯止めである「PKO参加5原則」が崩れていないかどうかである。5原則は、紛争当事者間の停戦合意や紛争当事者によるPKO活動参加への同意を条件とし、満たされなくなれば撤収できることなどを盛り込んでいる。

 7月の銃撃戦の後も政府は5原則を満たしていると主張するが、戦闘はやまない。停戦合意が崩壊し、内戦状態に戻っていると専門家はみる。

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 安倍晋三首相は駆け付け警護の新任務が与えられても「リスクが増えるわけではない」という。机上の論理というほかない。

 駆け付け警護が、なし崩し的に付与されれば、戦後、海外で1発の銃弾も撃たず、1人の戦死者も出さなかった自衛隊が「殺し、殺される」危険性にさらされる。

 駆け付け警護に前のめりになる姿勢を政府は改めてもらいたい。自衛隊の撤退も視野に入れ、むしろ日本の得意とする人道支援や民生分野での協力に舵(かじ)を切るべきである。