24年前、入社した初日の夜、配属された校閲部の部長に連れて行ってもらったのが那覇市・桜坂のおでん屋「悦ちゃん」。桜坂で飲むのも初めてだった

▼カウンター席で、味がしみた大根や柔らかくなったてびちを食べ、部長がキープしていた一升瓶の泡盛を飲んだ。ジュークボックスがあり、一昔前にタイムスリップしたような雰囲気が新鮮だった

▼桜坂の名物店だったが、女性店主(75)が8月末に亡くなり、40年余り続いた店は幕を下ろした。店先には長く一輪の花が置かれ、シャッターには感謝の言葉を書いたテープが貼られていた

▼かつての桜坂は、県内随一の飲み屋街。忘年会やクリスマスの季節には、行き交う人と肩が触れあうぐらいにごった返していたという

▼その後、那覇市内の前島や松山などに多くの店ができ、桜坂は一時のにぎわいを無くした。数年前に国際通りから神里原に抜ける通りが開通、街は開け、一変した。外資の高級ホテルも営業する。街の開発は進んだが、桜坂独特の空気は失われた

▼仕事帰りに通ったいくつかの店が次々と閉店していった。思い出深い「悦ちゃん」の閉店は桜坂の変貌を象徴するようで、寂しさはひとしおだ。年齢を重ねるということは、人とだけではなく、なじみの店や懐かしい風景との別れを重ねることなのかもしれない。(与那原良彦)