沖縄の史跡案内・世界遺産の解説というジャンルの書籍は、これまでも幾つか存在する。その中で、最近出版された本書は、異色の良本ではないだろうか。このような解説本の執筆者は、研究者などのいわば「専門家」の方々だ。しかし、本書の執筆陣はそうではなく、「古都首里探訪会」というサークルの皆さんなのである。

新星出版・1620円/古都首里探訪会は会員30人。2006年に首里公民館での講座を受けた会員らで発足。本書発刊に向け、15年4月に編集委員会を立ち上げた。

 本書は、この古都首里探訪会の長年のサークル活動の成果を積み上げて上梓(じょうし)されたもので、最初は琉球史も首里の歴史にも素人だった会員の方々が定期的に会で招聘(しょうへい)した専門家の講師の講話で学習し、学習成果をもとに首里周辺のフィールドワークを繰り返し、会員間で、何度も勉強会・編集会議を地道に行い続けて出版にこぎつけた労作なのである。

 大手の出版社のプロの編集マンや、著名な研究者を揃(そろ)えた執筆陣とは違い、素人っぽいところはあるが、会員自体が地元である首里を愛し、多くの史跡を自らの足で訪れ、現場の空気を感じながら、心を込めて紹介している本なのである。

 地道な活動から挙げられた項目には、こんな井戸(カー)や道があったのか? という場所や、近世や近代の文献史料の情報だけでなく、会員が記憶する史跡の近年の歴史を紹介している部分もある。実は、ここ数十年の記憶は最近すぎて記録として残された媒体も少なく、かえって次世代に残りづらい情報なのである。

 本書に息づくのはまさしく地元の方々が知る情報で、今、記録しなければ消えてなくなるかもしれない内容なのである。単なる史跡紹介本というだけでなく、数年、数十年後、首里の街並みが変化していった後に、さらに価値が出る1冊といえるのではないだろうか。

 首里を愛した方々の労作は県外からの観光客だけでなく、沖縄県民にこそ読んで欲しい一書である。首里城祭や琉球王朝祭り首里など、首里は祭りのシーズンを迎えている。ぜひ本書を片手に首里の町を秋風に吹かれて巡ってほしい。(上江洲安亨・沖縄美ら島財団琉球文化財研究室長)