核廃絶に向けた歴史的一歩となる決議の採決で、「唯一の被爆国」である日本が反対票を投じた。政府にも言い分はあるだろうが、情けない話である。被爆者の思いは踏みにじられ、国際社会からの信用にも傷がついた。

 国連総会第1委員会で、核兵器禁止条約の交渉開始を定めた決議案が採択された。

 核兵器を「違法な兵器」と明確に位置付け、開発や実験、保有、使用などを全面的に禁止する条約である。

 決議はオーストリアやメキシコなど非核保有国が主導し123カ国が賛成、米英仏ロの核保有国や日本など38カ国が反対し、中国など16カ国が棄権した。

 「本来先頭になって廃絶を叫ぶべきなのに」と、広島や長崎の被爆者が怒るのはもっともである。

 被爆者の声に心を動かされて反核運動に取り組んできた国際NGOからも批判の声が上がっている。

 決議に棄権することもできたはずなのに、あえて反対に回った理由は何なのか。

 米国が反対を求める書簡を北大西洋条約機構(NATO)諸国に送ったことが明らかになっている。日本政府にも同様の圧力があったのだろう。

 今回、第1委員会では日本が主導した法的拘束力のない核兵器廃絶決議案も賛成多数で採択されている。その際、昨年は棄権した米国が賛成に回った。

 核廃絶を訴えながら、禁止条約には反対するという分かりにくい態度に、米国の影がちらつく。

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 分かりにくさの背景には、ロシアのクリミア併合、北朝鮮の核・ミサイル開発など、冷戦の再来を思わせる安全保障環境の変化がある。

 米国による核抑止力の維持を、NATOやアジア太平洋地域の同盟国が求めているのである。

 戦争被爆国として「核なき世界の実現」を訴える日本も、現実には米国の「核の傘」に頼るという政策の矛盾を整理できていない。

 日本政府は決議に反対した理由を「北朝鮮の核・ミサイル開発に直面する中、核保有国と非核保有国の対立を深める」などと説明している。

 核拡散防止条約(NPT)で核保有国に「誠実に核軍縮交渉を行う」ことが義務付けられているにもかかわらず、遅々として進んでいないのが現状だ。

 「核の傘」への依存度が高まれば、北朝鮮の核開発に対する批判の正当性が弱まることを直視すべきである。 

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 核兵器の開発や使用を禁じる交渉は、来年3月以降本格化する見通しだ。

 核兵器使用は国際司法裁判所で国際法や人道法に「一般的に反する」との勧告的意見も出ており、非合法化に向けた具体的試みが持つ意味は小さくない。

 決議採択の原動力となったのは、核兵器の非人道性を訴えるNGO活動の広がりである。それを後押ししたのが被爆者一人一人の声だった。

 被爆者の人類史上の体験を核廃絶につなげていくため、政府は核抑止論を乗り越える道を打ち出してほしい。