山本有二農相が1日夜、自民党議員のパーティーで「こないだ冗談を言ったら(閣僚を)首になりそうになった」と口にした。

 こないだの冗談とは、国会で審議中の環太平洋連携協定(TPP)承認案と関連法案を巡り、「強行採決するかどうかは衆院議院運営委員長が決める」との発言である。

 強行採決が選択肢になると受け取れる発言について山本氏は、衆院TPP特別委員会で「ご迷惑を掛けた」と撤回し、謝罪した。

 それから2週間もたたないのに、「冗談」だったと面白おかしく語るのは、全く反省していない証拠である。あきれるばかりだ。

 1日のパーティーでは「JAの方が大勢いらっしゃるようなので、(パーティーを開いた議員の紹介で)農林水産省に来ていただければ、何か良いことがあるかもしれません」とも語っている。利益誘導をにおわす発言である。

 民進、共産、自由、社民の野党4党は農相の辞任を要求しており、2日に予定されていたTPP承認案の衆院特別委採決は見送られることになった。

 「強行採決」発言は行政府が立法府に介入するという重大な問題を含み、「農水省に来ていただければ」は古い自民党の体質を思い起こさせる。

 度重なる農相の失言の背景にあるのは、巨大与党をバックにしたおごりと緩み、そして審議軽視の姿勢である。

 更迭を求めるのは当然だ。■    ■

 衆院特別委の採決はひとまず見送られた。しかし政府、与党は4日にも採決したい考えで、承認を急ぐ姿勢を崩していない。

 共同通信社が先月実施した電話世論調査によると、TPP承認案について66%が「今国会にこだわらず慎重に審議するべきだ」と答えている。政府は時間をかけてもっと説明せよという数字である。

 審議の進め方にも問題がある。国会で議論が深まらないのは、交渉過程の情報開示が極めて不十分なためだ。

 生産者に伝わる情報となるとさらに少なく、県内のサトウキビや畜産農家からは不安を訴える声が消えない。

 審議の過程で、輸入米を巡る不透明な取引も表面化。関税撤廃の例外とするよう国会で決議した「農業重要5項目」についても、約3割の品目で関税が撤廃されるなど矛盾が指摘されている。海外に進出した企業と現地政府の紛争を解決する「ISDS条項」の議論も平行線のまま。

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 政府は「日本が率先して批准すれば米国の批准を促すことができる」と期待するが、来週に迫る大統領選の民主、共和両党の候補は、そろってTPPに反対している。

 両候補が「反TPP」を掲げるのは、自由貿易とグローバル化で経済格差が広がることを懸念する支持者の声に突き動かされてのことだ。

 翻って日本はグローバル化のリスクを受けないのか。グローバル化と関係の深い格差問題にどう対応していくのか。TPPという巨大な船に乗り込むには分からないことが多すぎる。