3年に1度愛知県で開催される「あいちトリエンナーレ」は日本最大規模の芸術祭だ。現代美術を基軸にダンス・オペラ等の舞台芸術、映画上映、参加型ワークショップ、「まちなか」での作品展示等、多彩な試みが国際的にも注目されている。本書はその2016年公式コンセプトブックである。

夢みる人のクロスロード(平凡社・1620円)/みなと・ちひろ 写真家、著述家、多摩美術大教授。/ほか著者は池澤夏樹、五十嵐ジャンヌ、高桑和巳、岡谷公二、町田恵美、端聡、ダニエラ・カストロ、金井直ら18人

 芸術監督の港千尋氏が「旅と創造」をテーマに国内外の多様な書き手に執筆を依頼、芸術祭のエッセンスを書籍に凝縮した。3パートにわたる豊富な内容から印象に残った文章を紹介してみたい。

 第1パート「神秘と夢」は世界各地に残る歴史的痕跡から、書き手たちが遠い過去と現在へ意識を巡らせる。港氏の「闇への憧れ」は伊江島のニャティヤ洞を訪れた記憶から、ギリシャ神話、キリスト教の典礼運動、洞窟壁画と時間も空間も超えたあらゆるイメージを連想させ、洞の闇に普遍的な神秘性を見いだす。

 町田恵美氏と端聡氏による「北への旅 南への旅」は沖縄県と北海道出身である両者が互いの地を旅し、異なる文化と新鮮な出合いを果たす。同時に、現在につながるアイヌ差別・戦争・基地問題を体感、他者の立場から真摯(しんし)に受け止め、自らのルーツをも顧みる。

 第2パート「記憶と場」は世界各国の抑圧された状況下、アートがどのように必要とされ表現されているかを綴(つづ)る。岡真理氏「署名としてのアート」はパレスチナ・ガザ地区で死と隣り合わせに生きる人々が「人間であることの存在証明」として詩や写真で創作活動する様を描く。報道で伝わらない切実な姿は、他人事(ひとごと)ではない。ここ沖縄や世界中あらゆる場所で抑圧される人々そのものに思える。

 人は自らの日常を飛び出し見知らぬ土地へ旅するとき、自由な視点で何かを発見する。アート作品に触れ、時間も空間も感覚も超え思考を巡らせることも、また旅ではないだろうか。芸術祭に行けない読者にも刺激を与える、アートをより身近なものとして捉えるきっかけとなる1冊だ。(渡慶次美帆・くじらブックス店主)