国民の不安は払拭されず、なぜ急ぐのかの疑問も解けないまま。衆参両院で過半数を握った自民党の数でごり押しする政治である。 

 環太平洋連携協定(TPP)承認案と関連法案が衆院特別委員会で強行採決された。

 昨年の安全保障関連法、2013年の特定秘密保護法の時と同じ光景だ。

 承認案などは与党と日本維新の会の賛成多数で可決された。維新が質疑と採決に加わったから「強行ではない」との言い分は、採決までの経過をたどれば説得力を欠く。

 そもそも焦点の農業分野を所管する山本有二農相の国会を軽んじる発言が、審議混迷の原因である。

 10月に開かれた佐藤勉衆院議院運営委員長のパーティーで山本氏は「強行採決するかどうかは佐藤氏が決める」と話し、批判を受けた。今思えば、最後は数の力でという本音の表れだったのだろう。

 9月には当時特別委の理事だった自民党の福井照衆院議員が「強行採決という形で実現するよう頑張らせてもらう」と発言し、委員辞任に追い込まれた。

 この時、火消しにあたった安倍晋三首相は特別委で「結党以来、強行採決を考えたことはない」と答弁している。

 しかし農相発言に野党が猛反発する中、審議は打ち切られ、強引に可決された。

 委員会室に飛び交う怒号、国会の外から響く抗議の声、世論調査で国民の6割以上が「慎重審議」を求める中、それでも「強行ではない」と強弁できるのか。

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 代議制民主主義に必要なのは「説明責任」と「情報公開」、「少数意見の尊重」だ。この三つが機能することで社会の安定が保たれる。

 TPPは外交交渉を盾に公表される資料が少なく、採決にいたる過程で説明が尽くされなかったため、農家や農業団体はいまだに大きな不安を抱いている。関税撤廃の例外とするよう国会で決議した「農業重要5項目」についても、国会での検証作業は不十分なままである。

 少数派の声をきちんと聞き、意見の相違を埋めていく徹底した議論がなされなかったことは、代議制民主主義の危機である。

 協定は最大の参加国である米国が批准しない限り発効しない。その米国での承認手続きが進まない中、なぜ急ぐのかの疑問も消えない。

 採決を巡る混乱によって、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」の批准が先送りされ、発効に間に合わなかったのも大きな痛手だ。

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 軽い言葉、足りない説明、力ずくの国会運営…。ここに巨大与党のおごりと緩みがある。 

 民進党は山本農相の不信任決議案を提出する方向で調整に入った。

 与党が圧倒的多数の議席を持つ現状では否決されるかもしれないが、強行採決に絡む発言に加え利益供与を疑われても仕方がない発言は、大臣としての適格性を欠く。

 政権幹部が「辞任するような話でない」とかばうところが、数の上にあぐらをかいて緊張感を失っている証拠だ。