10月29日夜。喧躁(けんそう)も収まった那覇市の沖映通りに寝袋や折り畳み椅子、枕を抱えた人々が次々と集まってきた。シャッターが下りたジュンク堂書店那覇店入り口で抽選を勝ち抜いた20人を迎えたのは店長の森本浩平さん(41)。「皆さん、ようこそ。思う存分楽しんで」と声を掛け、裏の通用口から店内に招き入れた。

ジャンケンで選んだ寝場所にマットを敷いて本を楽しむ=10月29日午後11時40分、那覇市牧志・ジュンク堂書店那覇店

寝っ転がって読書=30日午前0時50分ごろ

寝袋などの寝具を手に店内に入る参加者=10月29日午後11時

床に座って、ゆっくりと写真集のページをめくる=30日午前1時50分ごろ

ジャンケンで選んだ寝場所にマットを敷いて本を楽しむ=10月29日午後11時40分、那覇市牧志・ジュンク堂書店那覇店 寝っ転がって読書=30日午前0時50分ごろ 寝袋などの寝具を手に店内に入る参加者=10月29日午後11時 床に座って、ゆっくりと写真集のページをめくる=30日午前1時50分ごろ

 一堂が参加したのは、「『ジュンク堂に住んでみる』ツアー2016」。閉店後の静まりかえった店内を自由に巡り、人目を気にせず通路に座ったり、寝転んだりしながら、目に留まった本を手にしてページをめくる。本好きにとって、この上なく贅沢(ぜいたく)なイベントだ。

 「住んでみるツアー」は2014年、東京・霞ケ関にある売り場面積の小さなプレスセンター店で始まった。同店店長で営業本部副本部長の工藤淳也さん(27)は那覇店のイベントもスタッフとして参加した。「『本に囲まれて一日過ごしたい』というツイッターのつぶやきに、一晩だけでも応えてみようと思った」と2年前を振り返る。2人1組で、定数3組に3千組近くの応募があった。好評に応えて翌15年は大阪の千日前店で開催、3年目の今年、那覇店と東京・立川店で同時開催した。

 那覇店は定数10組で応募は9月末から1週間。地元客に限定しようと、告知はそれほど行わず、申し込みも直接の来店のみとした。30組の応募から参加資格を勝ち取ったのは友人や同僚、夫婦、カップル、親子に姉妹とさまざま。森本店長から「住人」と書かれた名札を首に掛けてもらうと、9時間超のツアーがスタートした。

 那覇店の蔵書は西日本最大規模の約100万冊。全国でも5本の指に入るという。一部の漫画や写真集、雑誌などビニールが掛かった書籍を除く約90万冊が読み放題だ。寝場所をじゃんけんで決めると後はもう自由時間。「普段読まないジャンルに挑戦したい」「専門書のコーナーをゆっくり歩きたい」「絵本をじっくり読みたい」。住人たちは期待に胸を膨らませ、立ち並ぶ書架に足を踏み出した。

 記者は入り口に近い1階を後回しにして地下1階へ。海外の紀行文を読んで旅に出た気分になったり、知らない地名を地図コーナーで探したり。隣にある古地図を見やると、昔の地名から歴史に思いをはせる。文芸の棚に足を運ぶと、気になっていたという現代作家や名作の小説を探す人の姿が。実用書のコーナーでは学生の2人組が声を上げて楽しんでいた。2階に上ると、心理学などの専門書の背表紙を吟味するように視線を走らせる人も。本棚の間に持ち込んだ椅子を置いたり、選んだ本を寝床にまとめて持ち込んだり。非現実的ながらも、至福の時が過ぎていく。

 日も昇った翌午前7時。報告会が開かれた。仮眠を取るつもりで寝過ぎて後悔していると苦笑いする人。全部の棚を回るつもりが、いろんな棚で引っかかってたどりつけなかった、と残念がる人。でも疲れた目をパチパチとしばたたかせながら、どの表情も晴れ晴れとしているようだった。

 久高千秋さん(42)と夏希さん(29)の姉妹は児童書スペースに“投宿”したが、眠らず過ごした。夏希さんは「買う前の本を書店で寝っ転がって読めることがすごく贅沢」と声を弾ませる。「横になると、普段見えない低い棚の絵本が目について、新鮮でした」。千秋さんも「本当に幸せ。ネットと違い、気になった本は一冊一冊すべて手に取れた」と目を輝かせた。

 息子の志喜(ゆきのぶ)さん(22)と参加した山城ひとみさん(56)は「図書館や本屋で一晩中、読むのは小さいころからの夢。かなってうれしい」と充実した表情だ。重い図鑑もゆっくり眺められたという。

 森本店長は県内書店が連携して6日まで開催するブックパーリーのテーマ「人生を変える1冊」を強調。「本はどんなことでも解決する。書店に足を運んでもらい、本との出会いの場をつくりたい」と決意を新たにしていた。(文・吉田伸、写真・下地広也)

寝っ転がって読書=30日午前0時50分ごろ