映画「男はつらいよ」は、主人公の寅さんを演じる渥美清さん独特の長せりふが見せ場の一つ。出演者やスタッフはオペラの独唱になぞらえ、「寅のアリア」と呼んでいた

▼沖縄芝居を代表する役者、真喜志康忠さんにお会いすると芸談が絶えなかった。身ぶりやせりふを交えて、芝居の名場面を実演した。「国難」など史劇は力が入った。独り舞台を独占した至福の時だった

▼20年前、真喜志さんら沖縄芝居の役者二十数人をインタビューした。沖縄芝居への思いを残すためだった。乙姫劇団団長・間好子さんの厳しい指導と張りがある声が印象に残った。控えめな平良とみさんが笑うと、心が和んだ

▼写真家の石川真生さんは1990年代、沖縄芝居を支えた役者らを撮影した。「今のうちに撮っておきたい」と沖縄の写真家の義務感と使命感で取り組んだ。真喜志さんや大宜見小太郎さんら12人の大判写真が那覇市民ギャラリーで13日まで展示されている

▼「得意な見栄(みえ)を切ってください」という要望に、役者は一発でポーズを決めてこたえたという。亡くなった方も多いが、石川さんはいう。「私の写真の中でかっこよく生きている」

▼写真を見ると、名舞台が脳裏に浮かび、往時の名優たちの姿を追想した。舞台の楽しみは二通りある。実際に見ることと観劇後に思い出すことだ。(与那原良彦)