現在の国際政治を理解する上で、第2次世界大戦後、40年あまり展開されてきた冷戦を振り返ることは不可欠である。本書は、日本における冷戦史研究をけん引してきた大家による、集大成ともいうべき研究書である。

「冷戦と「アメリカの世紀」-アジアにおける「非公式帝国」の秩序形成」(岩波書店・6912円)/かん・ひでき 1942年生まれ。九州大学名誉教授。京都外国語大学客員教授。アメリカ政治外交論、国際関係論専攻。著書に「アメリカの世界戦略-戦争はどう利用されるのか」(中公新書)など

 本書の狙いは三つある。第1に、冷戦期におけるアメリカの秩序形成の特徴と問題点を明らかにすることである。戦後、アメリカは「リベラル」な秩序の形成を目指してきたと言われるが、本書では、アメリカが民主化よりも資本主義や冷戦の論理を優先してきたという矛盾を鋭く指摘する。

 第2に本書は、特にアジアの秩序形成に際して、アメリカが構築しようとしたメカニズムを、「コラボレーター」という概念を使って説明している。コラボレーターとは、領土支配を伴わない「非公式帝国」だったアメリカのリーダーシップに従い、そのルールの枠内で自国の利益を追求する現地エリートである。本書では、中国、韓国、日本、ベトナム、インドなどで、アメリカがいかに現地のコラボレーター育成に取り組んだかが検討される。

 本書は第3に、冷戦期のアジア秩序における日本の役割を明らかにする。日本は、アメリカのヘゲモニーが翳(かげ)りをみせ、東アジア国際政治の転換期にあった際にも、コラボレーターとして、アメリカの冷戦政策を補完し続けたのである。

 本書を通して、戦後日本は、他国と比較しても、アメリカによるコラボレーター育成が見事なまでに成功した事例だったことがわかる。アメリカは、占領以降、新憲法や日米安保条約の制定などを通して対日支配装置を作り上げた。自民党政権や外務・防衛官僚は、日米安保やアメリカの「核の傘」に依存し、コラボレーターであり続けている。ここ沖縄では、対米協力者としての日本政府の姿や、決して「リベラル」とはいえなかった戦後秩序を実感する。本書は、そのような日米関係や日本外交の問題の根源を、歴史的に理解する上でも有益である。(野添文彬・沖縄国際大学准教授)