2017年(平成29年) 12月13日

タイムス×クロス 樋口耕太郎のオキナワ・ニューメディア

ドナルド・トランプという目覚まし時計 樋口耕太郎

樋口 耕太郎
樋口 耕太郎(ひぐち こうたろう)
トリニティ株式会社代表取締役社長/沖縄大学人文学部准教授

1965年生まれ、岩手県盛岡市出身。89年筑波大学比較文化学類卒、野村証券入社。93年米国野村証券。97年ニューヨーク大学経営学修士課程修了。01年不動産トレーディング会社レーサムリサーチへ移籍し金融事業を統括。04年サンマリーナホテル(沖縄)を取得し愛を経営理念とする独特の手法で再生。06年事業再生・経営受託を専業とするトリニティ設立、代表取締役社長(現任)。12 年沖縄大学人文学部国際コミュニケーション学科准教授(現任)。南西航空の再生をテーマにした「沖縄航空論」、人と社会の幸せを考える「幸福論」など担当。専門は事業再生および地域再生の実践。沖縄経済同友会常任幹事(09年度〜現任)。内閣府・沖縄県主催『金融人材育成講座』講師。沖縄に移住して12年になる。 http://www.trinityinc.jp/updated/ twitter: @trinity_inc

在日米軍関係経費の推移

アメリカが当選させたくなかった男

 11月8日の米国大統領選挙に合わせて、ほんとうに久しぶりの米国を訪れた。東西に広大な国土を持つ米国は6つの時間帯を有するが、そのうちもっとも遅いハワイ時間の日付が変わろうとする頃、共和党の大統領候補、ドナルド・トランプ氏の勝利が決定的になった。
過去6カ月間、選挙のほぼ前日まで民主党の大統領候補ヒラリー・クリントン氏が優勢と言われ続け、あらゆるメディアが発表する「世論調査」では、クリントンの優勢が揺るぎないものとされていた。ところが、ニューヨークタイムズウェブ版の選挙特別サイト(http://www.nytimes.com/elections/forecast/president)では、私がリアルタイムで見ていたわずか3時間の間に、クリントンの「当選確率」が80%から5%に、トランプが20%から95%に「驚き」の逆転を遂げた。3時間で全米の有権者の意思が変わったとは到底思えないから、そもそも「世論調査」の方に問題があったと考えるべきだろう。それが意図的なものであろうと、システムの欠陥であろうと、問題を不作為に放置した結果であろうと、選挙報道のあり方としてのメディアに重大な瑕疵が存在したことが明らかになってしまった。
そもそも今回の米国の大統領選挙における、米国のマスコミの態度は遠目に見ていても異様であった。過去6カ月前後の報道姿勢を見ている限り、大手新聞から、大手ネットワークの報道、ネット系のメディアまで、トランプがいかに人格的に不適格な人物かというメッセージを発し続けていたという印象が拭えない。

 アメリカの大統領選挙では候補者が数々の政治問題について公開ディベートを行うことが恒例で、選挙戦を大きく左右する天王山とも言われている。公平を期するべき3回のプレジデンシャル・ディベートでさえ、それぞれの司会者は露骨にクリントン寄りであったように思う。第1回目の司会を務めたNBCニュースのレスター・ホルトは、トランプに自らディベートを挑んでいるかのように振る舞い、また、税務申告問題や、女性蔑視発言など、トランプに不利になる質問を繰り返し投げかけながら、クリントンが公的メールを破棄したスキャンダルや、クリントン財団の不明瞭な資金の問題など、政治的にはより重要な問題を取り上げもしなかった(http://www.breitbart.com/big-government/2016/09/26/lester-holt-candy-crowley-moment-first-debate/)。2回目の司会で唯一の女性ABCニュースのマーサ・ラッダーツもトランプに対して冷淡だったが、後の投票日の選挙報道でトランプの勝利が濃厚になると、怒りと悲しみのあまり声を震わせて目に涙を浮かべるシーンが報道されている(https://www.youtube.com/watch?v=c4wzFfBWP5I)。ここまではっきりと反トランプである人物が司会に選ばれていたことは偶然なのだろうか。第3回目のディペートの司会を務めたフォックスニュースのクリス・ウォレスは最も公平に振る舞っていたようにも見えたが、それでもディベートの後でクリントンの発言時間がトランプに比べて6分以上長かったことをビル・オライリーに指摘されて、「そのことは自覚がなかった」と弁明している。
https://www.youtube.com/watch?v=T4TedcZkgBg (10:40〜)

 私の勘ぐりすぎかもしれないし、単にねじけた見方なのかもしれないが、このような状況を見る限り、アメリカのエスタブリッシュメントがそれほどまでに当選させたくなかった候補がトランプであったと想像したくなる。既得権益者が反対する理由は、世界中どこでもほとんどひとつ、それは、既存の秩序を変える可能性が高いからだろう。

変化の予兆


 ほとんどのメディアは、トランプがナルシシストでエゴイストで女性蔑視の人種差別者であることを印象付けようと躍起だった。しかしながら、選挙の論点で注目すべきポイントは他にもあったはずだ。例えば、トランプが既得権益者からの資金援助なしに、自分の財産で選挙戦を戦ったという事実は、現在のアメリカにとって大きな意味がある。政治は票なしにはスタートラインにつけないが、票を得るためには、多くの場合スポンサーとのつながりが生まれてしまう。このことは現代政治の重大な問題だと多くの識者が指摘している通りだが、既得権益者とのしがらみからここまで自由な米国大統領は近年存在しなかったのではないだろうか。

 私は、米国で不動産金融に関わってきた時から20年近く、ビジネスマンとしてのトランプを遠目にフォローしてきた。趣味やスタイルや人柄はともかく、彼がアグレッシブな実業家であり、大胆なリスクテイカーであり、タフなネゴシエーターであることに疑いはない。今回の選挙で彼がどれだけ批判され、スキャンダルにまみれ、支持率を落としても、驚くほどの粘りで最終的に「逆転」勝利を収めたことにも現れている。その力を認めないわけにはいかない。トランプが良い大統領になるかどうかは私にはわからないし、日本にとって、そして沖縄にとって、どのような効果が生まれるのかは本当に未知数だ。しかし、世界で最もパワーをもつ米国大統領というポストに少なくとも今後4年間、政治的なしがらみが最小限で、アグレッシブで、粘り強い人物が配置されると言う事実は、今後の日米関係の大きな変化を予兆させる。

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