米大統領選の結果が判明して数時間後、眠れぬまま朝を迎えた私はホワイトハウス前へ向かった。小雨が降る中、「人種差別反対」と書いたプラカードを手にした青年がひとり静かにたたずんでいた。

 「トランプが勝つだろうと思っていた。そう感じていた人は多かった」と話す中東系の青年は、トランプ人気が高まるにつれ、人々は差別を隠そうとしなくなっていったと説明した。

 民間団体の調査によると、黒人や移民などを狙った選挙直後のヘイトクライムの件数は、2001年の同時テロ直後を上回った。

 大手メディアはトランプ氏勝利を「驚き」と表現したが、少数派にとっては必ずしもそうではなかった。

 トランプ氏は当選した翌日、ツイッターで「プロ市民が抗議している。不公平だ」と呟き、約1週間後には、白人至上主義者を自身の右腕役に指名した。

 民主党重鎮議員のリード氏は11日に発表した声明で「罪のない米国人らが恐怖におびえ涙を流す傍ら、白人至上主義者らが勝利を祝う姿は、私が知っているアメリカではない」と批判。クオモ・ニューヨーク州知事は全米で発生する少数派への攻撃を憂慮し、「NY州は少数派を保護する」との緊急声明を発表した。

 選挙直後から始まった抗議デモは、全米各地で拡大しているが、ヘイトクライムの数もまた増えている。

 「アメリカの民主主義はいつから差別を容認するものになったのか。経済格差解消のためなら、われわれの人権を否定してもいいのか」と声を張り上げていた黒人の大学生は、「米国は選挙という民主的手法で民主主義を葬った。特定の人種の人権を否定し、差別を助長する人間を候補者にしたシステムには欠陥がある」と指摘。ある研究者は「アメリカの政策は世界に波及する。トランプ氏の人権軽視の姿勢は世界にも広がるのではないか」と憂慮する。

 沖縄では、トランプ氏当選が在沖米軍再編計画を見直す契機となるのではないかとの期待が先行するが、米国内のこうした動きを取材していると、もしかしたら沖縄には相当に厳しい局面が待っているのではないかと危惧するようになった。

 基本的人権や法の独立の尊重など、民主主義の原則を信頼しない新リーダーの誕生は、世界の秩序にどう変化を与えるのか。米国の民主主義は今、根底から揺らいでいるのかもしれない。(平安名純代・米国特約記者)