アメリカ大統領選挙は、大手メディアの予想に反して、共和党トランプ氏の勝利に終わった。憲法学の観点から、興味深い2点を指摘したい。
 第一は、選挙制度と選挙運動の在り方について。アメリカ大統領選は、州を単位に行われ、各州に上下両院の議員定数と同数の選挙人が配分される。下院の議員定数配分は人口比例だが、上院は各州2人なので、人口の少ない州が相対的に有利となる。
 今回の選挙では、選挙人獲得数ではトランプ氏の圧勝だったが、全米総得票数ではヒラリー氏がトランプ氏を上回った。こうした事態を受け、選挙制度の見直し論も出ているという。
 ただ、単純な得票数勝負になれば、大統領候補は、ロサンゼルスやニューヨークといった大都市に選挙運動を集中するようになるだろう。アメリカは連邦制国家で、州の権限を重視するので、地域特有の声が反映しにくくなることへの批判も根強い。
 実際、トランプ氏は、ラストベルトと言われる五大湖周辺の工業地帯の労働者の声を積極的に拾ったと指摘される。彼の暴言癖は許容し難いが、困難を抱える地域に配慮する選挙運動が、将来不安を抱える、多くの国民の心をとらえたのは事実だろう。
 第二に、裁判官人事について。共和党幹部は、トランプ氏の差別主義的な言動のあまりのひどさに、相次いでトランプ氏への不支持を表明した。この動きが一般の共和党員にも広がれば、共和党の強い州(レッドステート)でヒラリー氏が勝っても不思議ではなかった。しかし、実際には、トランプ氏は「普通の共和党候補」として、一般共和党員、保守系無党派の票を獲得したようだ。何が共和党員のトランプ氏離れを食い止めたのか。
 要因の一つには、連邦最高裁の人事があったように思われる。アメリカでは、大統領に最高裁判事の指名権がある。2015年6月、連邦最高裁は、同性婚を認めない州法は違憲だとの判断を示した。これに保守派の市民は強く反発した。トランプ氏も判決直後、これを覆すための裁判官人事を主張している。
 レーガン大統領指名で、同性婚判決にも反対意見を執筆した、保守派のスカリア最高裁判事が、16年2月に亡くなった。今回の選挙の勝者は、スカリア氏の後任を指名する権限を与えられる。保守派の有権者は、それをヒラリー氏に与えたくないと考えるだろう。実際、CNNの出口調査では、最高裁判事の指名権が投票の最重要要素だと答えた有権者が21%もいて、その過半数がトランプ氏に投票したことが分かっている。
 今回の大統領選挙は、日本の制度を考える上でも、重要な示唆を含んでいる。
 第一に、選挙制度は、候補者に、どのような選挙運動をしてほしいか、という観点からも考えるべきだ。参議院では、一部の県で合区とされた。1票の格差是正も重要だが、人口の少ない地域の声を軽視する傾向を生まないかは、慎重な検討が必要だろう。
 第二に、憲法判断を担う裁判官人事は、政治に強い影響を与える。憲法裁判所導入を主張するならば、人事の仕組みを合わせて検討することが不可欠だ。(首都大学東京教授、憲法学者)

=第1、第3日曜日に掲載します。